第2話 狂喜乱舞

 燃える山々を前方に望み岩が、転がる荒廃した大地の辛うじて道と呼べる物の上を朧車が、走る。

「なぜ浮かない顔してる。滅多に見れないお初さんの櫛だろ。可愛らしい花柄、似合ってるぜ」

具足に着替え羅刹鳥らせつちょうに備えた言太ごんたが、しまを気にかける。

「うるさいですよ。大切な物になるから狩り場になんて持っていきたく無かったのに言太さんがあ。……また今度と思ったのにぃ」

「次なんて無いだろ人気作何だろ」

「……」

透明なままの水晶を忌々しく睨み付けるしま。

「そーです奴が、来なけりゃ良いんです。それなら櫛を大事に保管出来ますし、村の皆で討伐に向かえます。言太さんより強い方が、ごろごろいるんですから瞬殺です!」

「ごろごろは、言いすぎだろ。まあ内にゃ強いのしか居ねえから瞬殺は、有るなあ」

言太は、楽しみを奪われる事を想像して眉間に皺を寄せる。

「ふっふーん残念でした。この通り水晶に変化無しです! 流石に襲ってくる時は、羅刹鳥も害意を示すでしょ。それなのに色ーー」

「しま、赤だ」

「へ?」

 赤に染まった逢魔の水晶を、確認した二人は、直ぐ様朧車から降り臨戦態勢に移る。

 外には、60約18メートルを優に越えるであろう山のようにでかい鶴の怪鳥が、己の脅威を示すが如く翼を広げ甲高い奇声をあげていた。

 言太は、朧車を遠くに逃がし身の丈の倍は、有る金棒を構える。物々しく刺が、付いたドス黒い六角棒だ。

 威嚇で怯まぬ獲物を見た羅刹鳥は、苛立ちなのか狂ったまなこをでたらめに向け、嘴から唾液と一緒に元の持ち主の破片が、こびり付いた目玉を大量に吐き散らす。

「何だあ? 小賢しい奴だと思ってたのによ」

言太は、想定違いでやたらに狂った妖怪に困惑する。

「何でちょっと嬉しそうなんです」

「あんな気狂い滅多に見んぜ。よしっサクッと締めようか」

 嘗められているそう感じたのか羅刹鳥は、嘴を広げて言太の顔目掛けて突っ込む。嘴は、そのまま相手を丸呑み出来る大きさだ。

 言太は、すかさず下から金棒を振り抜く羅刹鳥の顎に当たり鈍い金属音が、響く。不意の一撃で地面に落ちる羅刹鳥。当たり一面砂が、舞う。

 言太は、振り上げた金棒をそのまま振り下ろす。金棒を叩きつけられた嘴は、一瞬僅かに歪むもひびが、入るに至らない。

 低い高笑いと甲高い悲鳴が、荒野に轟く。

 羅刹鳥は、顔を振り回し立ち上がると、態勢をくずした言太に足を振りかざす。

 振り抜かれた足を言太は、咄嗟に金棒で防ぐも体勢も悪く自分の体と同じ太さの足で蹴られては、成す術無く地面に押さえつけられてしまう。

 言太は、金棒から手を放す。甲冑ごしでも骨に刺が、嫌な音を立て沈んで来る。構わず押さえつけてくる足の指を鷲掴むと言太の指が、食い込み足を軋ませた。

 羅刹鳥は、溜まらず獲物を放し嘴でえぐり取ろうとする。言太は、すかさず金棒を、握り気合い一閃振り払う。

 今迄と勝手の違う相手に羅刹鳥は、空に逃げる。

「今行きます」

 しまは、直ぐに言太に駆け寄り傷口を、御札で塞いだ。溢れ出る血液は、止まり拭うと綺麗な肌が見えた。

 傷が、治ったことを確認し、しまを抱き上げ横っ飛ぶ。間一髪羅刹鳥の急降下が、襲う。

 元いた地面は、羅刹鳥の足で無駄無く削られていた。

 「武器が」

しまの視線の先には、放り出された金棒が、有った。羅刹鳥もそれを見つけ足で掴みさらに遠くへと投げる。

「今は、要らねえ」

 言太は、武器には、目もくれず羅刹鳥を睨み続ける。生意気な獲物に荒立ったのか羅刹鳥は、嘴を目一杯広げ悲鳴にも似た奇声と共に飛来する。

 羅刹鳥と激突する瞬間に言太は、その場で高く跳び可能な限り体を丸めた。それを一息に喰らう羅刹鳥。

「はあ?」

 あんまりな事に困惑するしま。

 それを他所に羅刹鳥は、天を仰いで声を上げている。血を吐き出しながら。

「悲鳴?」

 嘴の中で言太は、舌にしがみつきながら舌の肉を引きちぎっている。羅刹鳥は、必死に吐き出そうと躍起になるも言太の手が、それを許さない。

 たまに嘴の外に体を出す獲物を叩き潰そうと、自分の顔を、何度も何度も地面にぶつける。ゴツゴツと硬い岩で骨を叩き脳を揺らしても決して止めない。

 地面にぶつけられた言太は、咄嗟に片腕で岩を握りしめ羅刹鳥の動きを、強引に止める。

岩は、簡単に砕けるものの言太は、何とか立つ事に成功した。

 息を荒げながら口角を上げると、舌を両手で握り締め。地面を両足でつかみ腰をひねり一本背負いを決める。地面に叩きつけられ再度砂埃が、舞った。

 体全体に衝撃が、走しった羅刹鳥は、肺の空気が、漏れる音を口から出す。反撃の為に一度呼吸をするも砂埃を吸ってむせてしまう。

 隙を逃さず二度三度と叩きつけひっくり返した羅刹鳥を、武器のもとまで引き摺り回す。

 羅刹鳥は必死にもがくが、足は空を切り翼は、地面に当たり逃げることは、叶わない。

 目当ての金棒迄来た笑みを絶やさぬ言太は、早速握りしめ舌を掴んだままの横たわる怪鳥を、見下し力の限り相手の目玉を叩く。金棒をぶつけられた目玉は、以外と硬く潰れないが、頭蓋の奥へと引っ込む。次に嘴を思いっきり叩くと、ひびが入りひしゃげて割れて嘴の破片が、勢いよく言太の目に当たった。

「ぐぁっ」

 隙を見つけた羅刹鳥は、起き上がり言太の土手っ腹を貫いた。

 

 

 


 


 





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