討伐鬼

化け

第1話 鬼と三毛猫

 化けていない提灯が、ずらりと並び鬼火と多様なあやかしの喧騒賑わう地獄に有る四通夜街。

 その中で高さ7約2,1メートルの一際大きい鬼が、これまた大きい悪魚と小さな化け提灯を複数、背負い歩いていた。

 「相変わらずごちゃついとるなあ」

 頭の二本の立派な角が、前に伸び。いかにも鬼と言った粗野な顔を歪ませる。

言太ごんたさん人混みが、嫌ならさっさと売る物売って帰りますよ」 

巫女装束の三毛の猫又が、悪態に答える。

 二足歩行で歩いても他のあやかしの腰ほどの大きさしかなく、動く度に顔と同じ大きさの鈴が、コロコロとなる。

 「しま、その金で龍虎伝奇を買うぞ。新刊が、出ていた。それぐらい良いだろ?」

言太は、鼻を鳴らし目的のなまず堂に急ぐ。

「まあ一冊なら良いんじゃないんです?村の使いっぱな訳ですし」

そう言いながらしまは、市場を見渡す。

 沢山の本や美味しそうな食べ物の他に色とりどりのかんざしくしが、並んでいる。

「面倒事を引き受けたんですからそれぐらいは、ねえ」

どれを身に付けようかと想像して心を、踊らせるしま。すべてを買えないからこそ却って楽しいのが、買い物だ。

 「相変わらずしまちゃんは、お洒落さんですね」

風定ふうていさん!」

 風定と呼ばれた男が、ゆっくりと会釈をする。くすんだ色の骨董品と、曇り一つない刀や金棒等を扱うなまず堂の主人だ。

 背丈は、しまと変わらず店の名前通り鯰を連想させるのっぺりとした姿をしている。

 言太は、無造作に背負った物を店に置く。

衝撃で店の皿が、音を立てる。

 「どうです?」

「今回は、小さいですね」

「最近は、雑魚ばかりが村を襲って来ましてね。ああいうどでかいのをぶっ潰したいんですよ」

言太は、ため息吐くと街の上空に浮かぶ黒く燃えるどでかい魂を見上げる。

「それは、よいですな。こっちは、神出鬼没の大型の妖怪が、頻繁に顔を出しては、街の討伐鬼とうばつきを挑発してましてね」

 言太達は、改めて市場を見渡す。

 討伐鬼とは、町や村に属する狩人であり、危害を加える妖怪の魂を刈り取るあやかしの事である。市場の中にも警邏隊として配備されているが、どこか憔悴している様にも見えた。

「大型……。そんな気配ありませんでしたが、なあしま」

「ええ、私の水晶も反応しませんでした」

 そう言ってしまは、懐から両手に収まる透明な水晶を取り出す。逢魔おうま水晶すいしょうと言い近くの特別巨大な妖力に反応して色が、変わる水晶だ。

「なーんにも色が、変わりませんけど」

「その水晶は、ただ妖力に反応するだけじゃなく害意に反応するんですよ」

 風定が、ゆっくりと疑問に答える。

「そうですよ」

さもありなんと言ったしま。

「頻繁に顔を出すと言ったでしょう。本当に顔を出すだけなんです」

「町に近づいただけで害意が、無いってことですか?」

「そうです。街そのものに直接被害を、与えないんですよ」

 「うーむ、それでも襲ってこないとは、限らない討伐鬼達が、苛立つ訳ですね」

言太が、苦虫を噛む思いで応える。彼も討伐鬼。妖怪の恐ろしさは、骨身に染みている。

 「何を考えているのか判らん奴が、一番質悪い」

「うんうん、言太さんとかね」

「何でだよ! 竹割った性格だろうが!」

「だって単純お馬鹿さんって何するか、分らないんですもん」

しまは、頭を押さえ付けられながらも反論する。

 「はっはっは。確かに言太くんは、よく突拍子の無いことをしますね」

「笑わんで下さいよ風定さん」

「でもその行動力は、信頼していますよ。何せこの街でも君らより腕の立つ討伐鬼は、そうそう居ませんから」

 言太は、不満を残しながらも代金を頂き

しまは、誉められたと素直に照れている。

 「風定さん代金が、多いよ」

「信頼できるおふたりに頼みたい事が、有るんです。その前払いですよ」

「ああ、荷車の護衛ですか。村に持って帰ればいいんでしょ」

「助かります」

「それでも多そうですけど」

巾着に入った代金を、何とか覗こうとしまは、跳ねている。

 「くだんの妖怪は、羅刹鳥らせつちょうと言います。其奴は、街を襲わないが、街から出ていく者を見境無く襲うんです。街の住民以外を選別してね」

「余分な代金は、討伐依頼の料金ですか。羅刹鳥、大いに結構! ぐはははは」

「言太さんが、最近退屈してるのは、知ってますけど不謹慎ですよ」

「動機は、何であれ討伐してくれるなら有難い。羅刹鳥は、目玉を好んでえぐる手強く残忍な相手ですから、くれぐれもお気をつけて」

 深々とお辞儀をする風定と別れ言太達は、街の外へと意気揚々と向かった。

 

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