第2話 正体不明なものに囲まれる

不思議なこともあるものだ。


今朝早朝、この話を書いている冒頭、先にも書いたように家が少しグラっと1度だけ揺れた。


この話をするのは当時と今と2度目だと思うが、先に注意したように、そういうのを気にされる方は、以下の続きを読むことをご遠慮して欲しい。


さて、続き


コンビニで各々の弁当を買い終えた自分たち男三人は、件の井戸があるキャンプ場へと車を走らせた。


パラパラと雨はふっていたものの、まだ午後で陽はあと2-3時間で沈むだろう。その前に現地へ行って、友人達と弁当を食べよう。


ちょっとしたピクニック気分だった。


山道のクネクネを行ききった後にそのキャンプ場はあった。


しかしよく記憶を辿ると、そのキャンプ場に昔きたことがある。


「・・なんじゃ、ここだったんかいの。」


自分は思わずそう独りごちた。


問題の古めかしい井戸はキャンプ場の共同炊事場、蛇口が並んでいる屋外横の平原にあった。


井戸は現在使われている風では無くて、蓋がされ、鍵がかけられていた。


なんのことはない、古い井戸というだけのことである。


ここでなぜ死体が捨てられていたのかわからない。


しかし人間の死体が入っていた井戸などもう使うわけにもいかないだろうから、蓋はされていた。


自分たちは井戸を見た後、もっと山奥を観に行こうということで、車を先へ先へと走らせた。


秋も深まり、ドライブは気持ち良かった。


そうするとしばらくしてどういう具合か、車は周囲を藪に囲まれた袋小路に入ってしまった。


車のまわりは背丈ほどもある黄色い藪に囲まれている。

自分はいささか運転に疲れていたので


「・・そうだなあ、ここで弁当食べようや。」


そう話し友人3人で弁当を開くことにした、そうして自分たちはその弁当を食べながら怪談を始めた。


自分が最後の番で、その頃には弁当を食べおわり、あの井戸にまつわる自分が覚えている話をした。


井戸に死体を投げ捨てた犯人は捕まったこと。それからあの井戸の脇を走ると、コートを着た女が呆然と立ち尽くしている姿を何人も目撃していること、そしてそれを特集したTV番組の幽霊イラストが、子供心にすごくこわかったこと。


助手席と後部座席に座っていた高校生の二人は自分の話を聞き終わると、無言になってしまった。


その後は雑談となって、まだ若かった自分たち三人は、その後の就職の予定など、たわいもない話で盛り上がっていた。


周囲も少し暗くなってきたので、そろそろ帰ろうかという時間、車に変化が起きた。


アイドリングが死にかけているのか、エンジンの回転数が落ちて、車がブルブル・・・ブルブル・・・と音を立てながら揺れ出した。


燃料がもうないのか?


そう思ったが、燃料ゲージは真ん中より少し下を向いているだけで、まだまだある。


三人は凍り付いた。


「・・・うわ・・マジ?」


「・・・車、調子悪いんですか?」


「・・・いや、腐っても○○(車のメーカー)じゃし・・ちゃんとディーラーで検査して乗っ取るけえそんなエンジンが死ぬような欠陥なんてあるわけないんじゃが・・」


自分は三人のなかでは20才を越えた年長だったので、焦ってはいたものの落ち着いている風を見せた。


「こんなところで車が止まったらシャレにならん・・」


友人はそういった。


ここいら10km四方に人家はないはずだし、自分は当時高価だった携帯電話など持ち合わせていなかった。


ブルンブルン・・・


車は未だエンジンを喘がせていた。


アクセルをふかすと、アイドリングはもっと遅くなって、振動は小刻みになり、とうとうエンジンはとまった。


そうするとあたりは静寂に包まれた。


あたりはパラパラと雨が降っているだけである。


誰言うと無く


「・・・もう1度エンジンかけて、帰りましょう。」


そういった。


自分は


「・・・エンジンがかかりゃあの話じゃがの。」


そう言い、再度キーを入れエンジンを始動しようとしたが、不思議なことにバッテリー上がりの症状に似た・・ピューン・・という静かな音しか聞こえなかった。


万事休す


三人は無言になった。


そうすると、そとから何やら変な音が聞こえだした。


バリ・・バリ・・バリ


今までの雨と風の音とは違う、明らかに違う音、なにやらその辺の葦を踏みながら静かに歩いているような、そんな音・・


バリ、バリ、バリ・・


三人は各々外をみるしかなかった。


「・・・なんじゃろあの音?犬にしてはゆっくりじゃし・・」


外は風と雨の音がしている。


パラパラ・・ヒュウウウウウ


その音に混じって、何やら葦をゆっくり踏みながら、周囲を歩いているようなそんな音がする


ばり、ばり、ばり・・・


音は次第に近づいてくるようにも感じた


「・・・帰ろう!はよ!」


一縷の希望を抱いてもう一度キーを回した。


グルルルル


やった!


弱いながらもセルはまわった。あとはエンジンがかかってくれるだけだ。


「・・・頼むから・・かかってくれ」


祈るような気持ちでセルを回し続けた。


”ウォンウォンウォン・・・ウォンウォンウォン”


「・・・頼む」


「・・・銀ちゃん、アクセルもふんどかにゃあダメじゃ」


友人がそういったので、若干アクセルを踏みながらもう一度キーを回した。


すると


ヴヲン・・・!


やっとエンジンが回った。


自分はバックで急発進しながら・・焦る友人達とその藪から抜け出た。


「・・・あーこわかった。」


友人の1人が言った。


「・・なんだったんじゃろうのう、あれ。」


幽霊を見たわけでもなんでもないが、ああいう経験をしたことはそれまで無かったので3人で無言になってしまった。


それから、一番近かった友人の家にあがりこみ、そのお母さんにみんなで話をすると


「・・だめよ、あんなとこに行っちゃあ。」


とこっぴどく叱られた。


男3人はシュンとしてしまい、その後はそのお母さんが食事を作ってくれて、自分たちは前に弁当を食べたはずなのに、若かったせいもあるだろう、その食事を喜んで食べた。


お母さんの話によると、あそこは遠くからピクニック客がくるだけのところで、あとは地元の人はほとんどいかないそうだ。


井戸の話以外にも、あそこらへん一帯は昼間でも気味が悪く、ピクニックの女性が襲われたり、昔から事件が耐えなかった場所であるらしい。


それから銀次郎はその周辺にでかけることはなくなった。


ただ、友人の1人が、その一年後ぐらいに、そのキャンプ場にさしかかる交差点で不慮の事故死をとげてしまった。


彼は1人で運転していたようだがスピードの出し過ぎということで、車はくの地に曲がっていたそうだ。


自分も彼も当時流行っていたバーチャレーシングとかレースのゲームが好きで、ゲーセンに良く行く仲だったが、それにしても高校卒業してすぐ亡くなってしまった。


広島の人間だったらあそこのキャンプ場を言えばすぐ分かると思うが、自分はそれ以降広島に帰ることがあっても、あの場所だけは足を向けていない。

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逢魔が時 山咲銀次郎 @Ginziro-yamazki

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