10話.[見てくれるなよ]

「今日は俺の相手だけをしてくれますよね?」


 今日の彼はとにかく距離が近かった。

 まあ、恋人という関係の状態で彼の家に入ったわけだから許可しているのと同じなのかもしれないがちょっと待ってほしい。


「ほら、テスト勉強をしないと、和宏は算数が苦手でしょ?」

「……いつの話をしているんですか、いまは算数じゃなくて数学ですよ」

「数学は苦手じゃない?」


 彼は限りなくボリュームを絞って「……ちょっと苦手です」と。

 もうじょりじょりの頭をがしがしと撫でたくなったけど我慢をする。


「やりましたよ、ご褒美をください」

「よしよし」

「それだけじゃ足りませんよ」


 そう言われてもこの前ので勇気と行動力を使いきってしまったからどうしようもない。

 やはり僕はするよりされる側なのだと分かった、もう年上らしくなくていいよ別に。


「そういえば教室での和宏っていつもどんな感じなの?」

「話を逸らさないでください」

「いいから」


 これは普通に友達として気になることだ。

 最近教室に行った際には読書をしていたわけだが、友達がいないのだろうか?


「いつもひとりでいますよ」

「え、寂しくないの?」

「だからほとんど謙太先輩達の教室に行っているじゃないですか」


 なっ、おいおいそれって……。


「寂しいんだ?」

「と言うよりも、友達がふたりとも上の階の教室にいるというだけですね」

「なるほど」


 同じなら自分でも間違いなく行くだろうなと考えて揶揄するのはやめる。

 いや、寧ろ彼なんかよりも頻度が高くなることだろう。

 でも、彼みたいにほぼつきまとうみたいなことはできないから同じにはならないけど。


「いつもありがとう」


 僕達の関係はもう変わっているんだから気にしなくていい。

 あと、やっぱり任せるのもあれだから自分からも多少はする。


「昨日、明らかに豪と良平先輩を優先していましたよね」

「え? 違うよ、ちゃんとみんなの相手をしていたでしょ」

「どうだか」


 嘘をつく意味がない。

 それにあそこで空気を読めずに彼を優先したら駄目だ。

 結局こうしてあのふたりがいないときは彼を優先しているのだから。


「もう一回しましょう」

「もう一回って言うけど、あれは和宏が無理やり――……してきただけだよね」


 少しの間、顔が見られなくなるから嫌なんだ。

 あと、こんなことが母とか翠とかにばれてみろ、家を追い出されかねないんだぞ。


「恋人同士なんですからいいじゃないですか」

「和宏的にはそうなんだろうけどさ」

「嫌だってことなんですか?」


 うっ、そんな顔で見てくれるなよ。

 そんな、捨てられそうになった犬みたいな顔でさ、いやまあ知らないけど……。


「……嫌じゃないよ」

「はは、じゃあよかったです」


 ああ、怖い怖い。

 もう十分休憩したから勉強に戻った。

 赤点を取っても追い出されるから頑張らなければならないのだ。

 こういうところで年上らしいところを見せたいのもある。

 だから次はこういう風にさせないと決めたのだった。

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50作品目 Nora @rianora_

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