09話.[目を開けたのに]
「謙太先輩、起きてください」
確かに目を開けたのに夢かと思った。
だって彼はこの家に入ることを禁止にされている人間だ、そんな存在を母が素直に入れるとは思えなかったからだ。
「どうやって……」
「翠が入れてくれました、起きてすぐで悪いんですが来てください」
「分かったよ、着替えるから外で待ってて」
「はい」
なにかトラブルでも起きたのだろうか?
というか待ってほしい、僕達の関係ってもう変わってしまったのだろうか?
「お待たせ」
「はい」
いきなり影ができたからなんだと思って見てみたら、
「こいつがうるさいので、すみません」
それは豪君で、どうやら会いたかったみたいだった。
豪君は彼の頭を小突いて「もう少し優しくしてくれよ」と言う。
彼は冷たい顔で「謙太先輩に悪さをしないなら構わないので早くしてください」と吐いた。
やっぱりまだまだ豪君には厳しいようだ。
「ちなみに良平もいるぞ、あっちで眠そうだけどな」
「はぁ、こいつら面倒くさいな……」
「「おい、聞こえてるぞ坊主君!」」
それでどうやらこの前のリベンジをしたいようだった。
今日は対戦相手を変えての勝負となった、僕の相手は良平で。
「ははは、謙太には負けないな」
「良平には勝てないよ」
小中と野球をやっていたみたいだし。
ちなみに高校になって辞めた理由は「疲れた」からだそうだ。
毎日夜遅くまでするらしいし、夏休みとかもほとんどなくなるみたいだから正解かも。
「木島、俺とも勝負しようぜ」
「うん、いいよ」
やる前から無理だと諦めることを諦めたんだ。
やって負けた方がよっぽどいい。
実際、その通りになってしまって悲しかったが、それでも楽しくてよかった。
そんな小学生並みの感想を抱いている間に良平が急用で離脱。
「お、たい焼きだってよ」
「美味しそうだね」
「そうだ、木島には買ってやるよ」
自分だけだと申し訳ないから断ったものの、ちゃんと勝負してくれたからということで結局買ってもらうことになってしまった。
「木島はカスタードが好きなんだな」
「うん、あんこも美味しいんだけどね」
ああ、ただ先程からずっと無言のままの彼が怖い。
別に豪君や良平ばかりを優先していたつもりはないから必要以上に怖がらなくてもいいのかもしれないが……。
「しょうがねえから町にもやるよ」
「ありがとう」
「俺には意地でも敬語を使ってくれないんだな……」
そう口にした豪君は少しだけ寂しそうだった。
彼はそんなところを見て逆に楽しそうだったのは気のせいだろうか?
うん、気のせいだと思いたかった。
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