はじめましての距離

宙間通信

《こちら探査船レーナ号。惑星エバの応答を乞う》

「初めまして、こちら惑星エバ宙港。当星へ寄港を希望しますか？」

　酷く低出力の通信に応答すると、49分21秒後、レーナ号から次の通信が来た。

《否。当船は、船内時間9636時間前の事故により、推進機能を失い、軌道を変更できません》

　それでは、地球年換算で一年以上も、宇宙空間を漂流していることになる。

「乗員はどうしていますか？」

　47分33秒後。

《副船長は即死。船長は負傷により三日後に死亡。生存者はゼロです》

　船の制御AIレーナが、淡々と報告する。私は尋ねた。

「貴船は、これからどうするのですか？」

　45分01秒後。

　大量のデータが送られてきた。レーナ号のこれまでの航行記録だ。

　全データ送信後、レーナは付け加えた。

《船長は亡くなる前、「レーナ、先へ進め」と言いました。

　私は、船長の命令に従います》

「レーナ号。こちら惑星エバ宙港AI、個体名ライラ。

　貴船の今後の安航を祈る」

　48分14秒後。

《感謝する。貴港の息災を祈る》

　それを最後に、通信は途絶えた。

　私は、一連のやり取りをまとめて圧縮すると、かつて移民されたものの放棄され、今は無人の惑星から、レーナ号の母星へと送信した。