〖短編〗うちの同居人は、ちょっぴりオモい。
YURitoIKA
うちの同居人は、ちょっぴりオモい。
新年度。春。青春。
沸き立つ蒼の舞台を前にして、ボクはほとほと困っている。
斯々然々の事情があって、学校近くの格安アパートに住むことになった。
名前は
格安といっても、皆が想像するようなボロではない。至って外見も中身も綺麗なのだ。
ではただのラッキー格安物件......というわけでもない。
格安の理由は部屋の少なさ。広い代わりに二人一組でひとつの部屋に住むこと強制。
新高一のボクにとっては、新たな学校生活に新たな同居人との出会いと、青春の二文字が一気に畳み掛けてきたかのような内容だった。
して、同居生活初日。
家具は最初から手配されているということで、ボクの荷物は最小限に留まった。が、それでも思春期真っ只中の高校生の荷物は多いもの。
重い荷物を“よっこらしょ”、と時代錯誤な掛け声と共に肩から下ろし、真新しいインターホンを押してみる。
すると、
『......はい、
なぜにフルネーム。電話と勘違いしているのだろうか。
「あ、同居人の───」
___と、丁寧な挨拶を済ませて、ボクは部屋に入った。
出迎えてくれたのは、背の小さい少女だった。
黒長髪に白セーター、スカート。瞳の色は
一応先月に部屋のチェックはしていたので、アパートらしからぬ広さにはさほど驚かなかったのだが、あまりにも部屋の中身が綺麗に整頓されていたので唖然とした。
テーブルやらソファーやらの家具、カーペットに壁紙は既に整備されていた。もっと
無論彼女だけで用意したわけではないだろうが、ここまでとは思わないだろう。
荷物を整理し、一通りの自己紹介を済ませた後、珈琲まで薦められてしまった。
「あの、なんかごめんね。ここまでさせちゃって」
「あ......全然、いいですよ」
「いや悪いよ。同居人だし、同じ学年なのに。なるべく対等な関係でいたい」
「あ......対等な、関係?」
「そうそう。いつまでここに住むかは分からないけど、隔たりは無くしていきたいから。駄目かな?」
「あ......駄目じゃ、ないです」
「そかそか。ならよかった。よし、ならすぐにでも仕事を───」
「珈琲、飲んで」
「............。あ、はい」
上手くやっていけ......そう?
珈琲を飲み干して、さらに一息入れてから、仕事を開始することにした。
「下の倉庫にあるの?」
「あ......はい、地下倉庫」
「地下!?」
ここ本当にアパートなのか。
「あ......運ぶの、私が買った、二人分の、ベッドなんですけど。来たとき、確認したら、大きくて。やっぱり、一人は難しいんじゃ、」
「なーに大丈夫。ここまで色々任せちゃったんだし、ベッドの一つや二つ、どうってこたぁーないよ」
正直に言えば大丈夫じゃない。高校生用のベッドとなればそれなりに大きいだろうし、一人で運ぶのは至難の業だろう。
しかしここは、
さぁいくらでもかかってこい___
と、思っていたのだが。
埃っぽい地下倉庫に、ポツンと、それでいて大胆に置いてあるのは、
「ダブル......ベッドぉ?」
間の抜けた声だったと思う。
それほどまでに驚いた。というか、驚かない方がおかしいというもの。
ダブルベッド。
本来一人用であるシングルベッドを、二つ繋げたようなもの。
当然一人用ではなく、フィクションの世界でもノンフィクションの世界でも、前略してラブラブする場所である。
業者の方が間違えたのか。いや、きっとそうだろう。そうに違いない。
地下倉庫で一人逡巡した後、
『私が買った、二人分の、ベッドなんですけど。来たとき、確認したら───』
......。思い出す、彼女の一言。
同居人は、ちょっぴりオモい......?
┗┓┗┓┗┓
❮P-1:ルール決め❯
大屋さん曰く、部屋の割り振りが本当に気に入らない、もしくは問題がある場合は変更できるという。
ので、一先ず一ヶ月は“日記”と共に様子を見てみようと思う。
もし彼女が問題のある人間であれば、その時はその時だ。
同居二日目。
昨日は荷物の整理で忙しかったので、二日目である今日、ルール決めをすることにした。
お互いのことをよく知る為の一貫として、自分達が所有する物の中で、どれか触ってはいけないものを決めたり、門限を決めたり等々。(就寝時間を考慮して)
メモ用紙につらつらとルールをまとめていき、気がつけば二時間ほど。
“大切なモノリスト”と名付けて、無事まとめることはできたし、彼女のことをより知ることができた。
......というのも、彼女の趣味はぬいぐるみ集め───ではなく、ぬいぐるみ制作なようで、なんとボクのぬいぐるみまで作ってくれていた。
いつ作ったのかは教えてくれなかったが、なかなかどうして、かなり似てる。
いや、ほんの掌サイズのぬいぐるみなのだが、はっきりとボクの顔がデフォルメされているというか......もはや恐ろしい。
無くしたら洒落にならないバチが当たりそうなので、机の引き出しにしまっておくことにしておいた。
___という一幕があり、色々と考え事をしたということで、ボクはアパート近くのコンビニでアイスを買ってきていた。
ガチムチくんという昔ながらのアイスを頬張りつつ、どの部活に入るか~等、これから始まる学校生活について話していた。
と、
「あ......そういえば、さっきのメモ、ひとつ、書き忘れてることが、ありました」
「え?まだあったの?」
「あ......はい。これ、」
胡桃はボールペンを手に取ると、細く薄く、自分の名前を書いていた。
「......?なにを書いてるの?」
「あ......名前、名前を書いとか、ないと、後々怖い」
理解するのに少しばかし時間を要したが、大体分かった。
「ボクはそんな薄情なことしないよ」
「あ......そうですか、そうですよね。でも一応、あなたも、名前」
「でも、」
「名前」
「......。分かった、書こう」
なんかここで名前を書いとかないと、後の展開が
大事なものリストにお互いの名前を書かせる。......うーん。
同居人は、ちょっぴりオモい。
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❮P-2:メールスルー❯
時代を象徴するがの如く、メールの進化形であり延長線上。
今やスマートフォンに必ずといっても良いほどダウンロードされているコミュニケーションアプリである。
当然、ボクと胡桃も連絡手段として利用しているのだが___
───────────────
『買い出し、一人で行かせてしまって、申し訳ない、です』
『大丈夫!(スタンプ)』
───────────────
大屋さんから近所のスーパーへ買い出しを頼まれた。いつもは胡桃と同行するのだが、彼女は部活が長引いてるのでいけないとのこと。
彼女の部活は吹奏楽部であり、覚えたてであるこの時期は、何かと忙しいのであろう。
というわけで、一人で買い出しに来ているわけだが......
───────────────
『なにか、あったら、すぐに言って、くださいね』
『うん』
───────────────
メールの量が、すごい。
なんか逐一......というか、一分単位で送られてくる。心配性なのはこの二週間で分かりきったことだが、度が過ぎるというかなんというか。
てか部活はどうした。
───────────────
『そういえば部活は大丈夫なの?心配してもらってばかりじゃ癪だし、ボクのことは気にしなくていいよ』
『いえ、演奏しながらも、足で、操作できるので』
『あしぃ!?』
『はい。ですから、ご安心を』
───────────────
彼女がいよいよ恐ろしい。どの
補足しておくと、彼女はスタンプを一切使わない。
いちいち返信していても仕方がないので、とりあえずライムは閉じて買い出しに集中することにする。そうすれば彼女もボクのことを気にせずに、部活に集中することができるだろう。
カロットマートという昔ながらのスーパーに買い出し。
来年には近くに巨大なショッピングモールが建てられるということで、人の出入りが寂しくなってしまうのかと考えると、ちょっと悲しい。
大屋さんから貰ったメモの通り買い物を済ませ、スーパーを出る。買った物をマイバッグに詰めてる途中、近所のおばさんの世間話の相手をすることになったり、畑で取れた野菜を貰ったりとしている内、帰る時間が予定より遅くなってしまった。
胡桃に伝えていた時間をとっくに過ぎてしまったが、彼女はもうアパートに帰っているだろうか。彼女も合鍵を持っているので、閉め出しはないと思うのだが。(詫び用のアイスも購入済み)
アパートに帰る途中、スマホを開いてライムを確認してみる。
彼女のことだし、何件かメールを送ってきていることだろうが___ん、
───────────────
_________________________________
・万里胡桃・
大丈夫、ですか!!!(通知+999)
_________________________________
・ライムツムツム【公式】・
お届け物のお知らせダヨ!(通知+3)
_________________________________
・レコマギ【公式】・
こんなのあんまりだよ......(通知+1)
_________________________________
・本條双弥・
鼻毛カッター返せよ(通知+2)
_________________________________
───────────────
......。
............。
............999件?
初めて見たぞ。こんな数字。とりあえず記念にスクショスクショ......じゃなくて、なんだこれは。心配とかそういう域じゃないだろう。狂気に片足どころか上半身までまるごと突っ込んでるぞ。
恐る恐る内容を確認してみると、なんとびっくり全て文章が違う。
当然スタンプを使わない彼女だが、メールの内容さえ所々変えて送ってきている。
───────────────
『大丈夫、ですか!!!』
『なにか、怪我でもしたんですか!』
『もし、かしたら、怪我でも?』
『病気なら、すぐに、言ってください!』
『体調は不良ですか!』
『返信して、ください』
『お体に、なにかわ異常でも?』
『返信してください』
『もしかして、目が、見えなくなったり?』
『妖怪とか、の仕業ですか?』
『わたし、すでに部活、終わってます』
『なにかの、陰謀ですか!?』
『どーどーどー』
『わたしは、敵じゃありませんよー』
『洗脳、でしょうか』
『おい』
『大丈夫、でしょうか?』
『返事してください』
『心配、です』
『だいじょうぶでしょうか』
『返信してくだ、さい』
『こちらは、部活、終わりました』
『買い出しの___
───────────────
同居人は、やっぱりオモい。
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❮P-11:先輩のチョコレート❯
「あ......今日は、なにか、良い事でもあった、のでしょうか?」
「お、分かる?」
「あ......はい、顔に、書いてあります。
「
ボクは学校用のリュックから、ひとつの紙袋を取り出した。
「ほれ、手作りのチョコ!パソコン部の先輩から貰ったんだよ~。入部祝いだってさ!先輩とはいえ女の子からチョコを貰うのは何年ぶりか......いや、初めてかも」
彼女に言われずとも、ボクは嬉々とした表情で舞踊っている自覚がある。けどいいじゃないか。こんなこと滅多にないだろうし。
「あ............」
「しかもその先輩、学年では結構可愛い方の人でさ。いや~まさかまさかよ、ボクがチョコだなんて」
「あ............」
「これは脈ありかな~。でも、他の奴等にも配ってたし、ただの優しさ......いや、ボクだけ中身が違うとか!?よくよく考えればこの四角いチョコレートも、元はハートだったのが歪んで───」
「......くん」
「やっぱり何処かしらに愛情ひょ、ん?」
「ちょっとそれ、頂きますね」
言って、胡桃は、袋から出したばかりのチョコを、全て手に取って───パクリ。
「あ」
もっきゅもっきゅなんて効果音を立てながら、なにか言っている。
「ちょ、胡桃さん!?」
「うぁ......
「いやちょ、食べながらじゃなに言ってるのか分からないって!てかなんで食べてんのさ!」
「うぁ......
「なに?毒味?いや全部食べる毒味があるか!完食しちゃってるじゃん!」
「うぁ......
「ボクの、チョコ......」
「うぁ......
「もう食べれないじゃん!」
「うぁ......
「もう知らないよ、勝手にしてくれ!」
ボクは苛立ちを隠せないまま、部屋から出ていった。
流石に限度があるだろう。やっぱりあいつは手に負えない。もうこれっきりだ。
「
最後に自分の名前を呼ばれた気がしたが、そんなのは無視して、ボクは自分の部屋に籠ることにした。
幸いか、夜食は既にとっていたので、風呂は諦めてそのまま眠ることにした。
同居人は、ぜったいオモい。
┗┓┗┓┗┓
❮P-12:買い出し❯
窓が開いたままだったのか、今日の朝は、春にしてはあまりにも寒い。
慈悲の無い寒冷に包まれながら、或いはそれが原因となって、あまり気持ちの良くない目覚め。
しかし、自分にだって自覚はある。
目覚めが気持ち良くないのは、昨日の胡桃とのやり取りが原因だと。
窓を閉めて、ぐぅー、と背伸びをしてから、部屋のソファに腰掛ける。
大きく、そして深い溜め息をついた後、脳内会議。
『もう知らないよ、勝手にしてくれ!』
......いや、あれは単に胡桃が悪い話だと思う。
人様のプレゼントを勝手に食うのは、どんな理由であろうと許せないし。
けれど、突き放すような言い方も問題アリだった。
......それにしても、だ。
たった一睡しただけで、こうも苛立ちが何処かへ吹っ飛ぶのだから、人間は実に都合がいい生き物である。
ここは
少ししてから、インターホンが鳴った。
ちなみに時刻は朝の5時。マナーってもんを知らんのか。
「はい」
『おっはよー!空樹くん。どう?喧嘩、仲直りした?』
早朝だというのに、鼓膜にギンと響く声で挨拶をしてくるのは、
「え?いや、なんでそのことを知ってるんですか?もしかして胡桃が......」
『いや知らないよ?』
「............?」
『なに、単に勘よ、勘。お姉さんの勘。あれでもその様子だと、本当に喧嘩してたみたいだね』
シンプルに恐ろしい。
「まぁそーゆーことに深入りするとあじゃぱーになっちゃうしさ、あたしは生温かい目で見守っておくよ」
「生じゃなくてよろしい」
「んで、だ。こんな朝早くに呼び出したのは別件でね。単刀直入に言えば、買い出しに言ってもらいたい」
「この時間に?」
「あぁ。今日は土曜日だろう?カロットマートのセールが朝の7時からなんだよー。だから頼まれてくれないかな?ほら、胡桃ちゃんを誘ってさ、仲直りの機会にするとかさ」
「買い出しの件は別にいいですけど、胡桃は......」
「ま、そゆことだから、よろぴくね~!」
ブツンと、インターホンが切れる。
なんてマイペース。否、マイ
ハイテンポに買い出しに行くことが決まったわけで、ポストに入っていた買うものリストを確認しながら身支度を進めていく。
『ほら、胡桃ちゃんを誘ってさ、仲直りの機会にするとかさ』
......簡単に言ってくれる。
あまり女性と触れ合う経験が無かったボクに取って、正味今回の出来事は死活問題である。
確かに、今日明日と休日だし、時間は良い意味でも悪い意味でもたっぷりとある。
まだ胡桃は寝ている。
起こすか、起こさないか。
連れていくか、連れていかないか。
ボクは___
◤Greef Trigger◥
(下の選択肢から選んで下さい)
[①:連れていかない]
[②:連れていく]
[③:ファイナル・インパクトを引き起こす───!]
*②、③の場合は一度前のページに戻り、選んだ方のお話に進んで下さい。
①を選ぶ場合は、このまま進んで下さい。
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