◤Greef Trigger◥(物語分岐)
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①【連れていかない】
............。
いや、彼女を連れていくのは無しにしよう。
そもボクから誘うだなんて、昨日の一件を考えるとおかしい話ではある。
......。いや、正直に言えば、怖い。
誘うことができたとしても、道中気まずくなるのは嫌だ。
地獄のような時間を送るのであれば、家でお土産でも買ってきてから話し合った方が自分たちの為というもの。
そうしてボクは、一人でスーパーへと向かうことにした。
カロットマートの前には、小さなスクランブル交差点がある。
田舎町らしく人通りが少ないのだが、所々にお婆さんや主婦の姿。
7時から始まるセールの為か、マイバッグ片手に瞳には闘志がメラメラと宿っている。
触れたら火傷するどころか蒸発しかねない闘志───否、殺気を以てスーパーへと並んでいく。
交差点から見える限り、既に列はできている。まずい、出遅れては目当ての物が買えないかもしれない。
こちらも急がなくては___と、交差点を渡ろうとした時、
目前には子猫の姿。
「あ、」
鳴いてるのは親とはぐれたから───いや違う。近づいてみると、足から血が流れている。
どういった経緯でこうなったのかは分からないが、歩けないようだ。
このままでは轢かれてしまうだろう。
であれば当然、
「───ッ!」
子猫へ一直線に走り出す。
数秒足らずでたどり着き、バッグに入っていたタオルで包んで抱き抱える。
子猫の世話なんてしたことないし、無論怪我の手当てすらしたことのないボクにとって、今はこの危険な場所から遠ざけることしかできない。
猫語は喋れないので、母なる日本語で“もう大丈夫!”と声をかけながら歩道を目指す。
ところで、人生には不注意というミスが付き纏うものである。
些細なミス、重大なミス。
人間であれば必ずしも一度は不注意とやらに狩られる訳だが、ボクもまた、その不注意とやらに狩られようとしているらしい。
それは地位を落とすミスか、信用を落とすミスか。
そのどちらでもなく、ボクは、命を落とそうとしていた。
青いスポーツカーがこちらに迫ってくる。
響くクラクション。
揺れる視界はスローモーションのようだった。
これが走馬灯とやらか。
こうして意識を保っているのも、人が死を覚悟した───ある臨死状態による覚醒か。
あぁ、こんな時にどうして関係の無いことばかり思い浮かぶのだ。
ほら、もっと、家族の事とか___
『空樹さん!』
何故、彼女が。
頭に響く空耳は、しかし、鮮烈にボクの体を支配した。
その場で全身が硬直したままのボクに、首を動かすという動力をくれた。
コマ撮りのように切り取られた世界で、ひとつ映りこむ少女の姿。
「空樹さん!」
やがてそれが空耳でないことに気づくと同時、ドン、という衝撃と共にボクの意識は何処かへと消えてしまった。
消えたといっても、すぐに目が覚めた。
そして目が覚めたということは、ボクはまだ生きているということ。
おかしいのは、身体は痛むものの、血がどこからも出ていないこと。骨がぐにゃりも曲がっていないこと。そも命が在ること。
子猫はまだボクの手の中に。
その温かさと、可愛らしい鳴き声が、この子がまだ生きていることを証明していた。
「......ぐ」
体を起こして、周囲を確認する。
ボクと子猫は歩道と車道の境界線の辺りにいて、ボクを轢くはずだった車は止まっていて、その先に___
「............胡桃......?」
倒れて、ぴくりとも動かない、少女の姿。
近づいてみると、彼女の姿は、ただ眠っているようにみえた。
車に轢かれた小さな体には、傷は少なく、ただ息をせずに横たわっている。
「どうして......ぼ、ボク......を?」
理解ができない。理解はしたくない。
あれからボクを追って、轢かれようとしていたボクを突き飛ばして、助けた?なぜ?
なぜ、とは最低な質問だ。ボクは知っていた、分かっていたではないか。
難はありつつも、彼女は同居人であるボクを誰よりも大切にしてくれていた人であると。
それからは、
子猫を一度放し、彼女の死体を抱える。
看取ることもできず、なんてのはだめだ。
いや、彼女が死んだ実感もまだ無い。
本当はまだ生きていて、これがまたなにか心臓に悪いドッキリで、そんな希望と共に彼女を抱いた。
しかし、現実と彼女の体は、うっすらと冷たくなっていくだけだった。
その後のことはよく覚えていない。
運転手とのやり取りも、警察とのやり取りも、救急隊とのやり取りも、思い出せない。
ただ一つ思い出せることは___
体を支える力を無くした彼女の死体───いや、同居人の死体は、
途方もなく重かった。
◆END①[BAD END]◆
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