第10話 川井市女子高校生連続不審死事件 


2011年1月末 川井市 平津戸 重茂原子力発電所:放射性廃棄物最終処分場


普段は放射性廃棄物を積んだトレーラーしか入らない山中に警察車両が数珠つなぎに道を占有している。

重茂原発の廃棄物処分場として大きくなった川井市。原発関連の会社が増えるのと比例して犯罪も増加してしまった。

中でも、川井市の女子高生が行方不明になる事件が一番酷いもので、数年に一名だったものが最近になって、数か月に一人の割合で増えてきていた。

今月中旬に7件目、そして昨日8件目の不審死が発見された。最終処分場の中で発見された遺体は、かなり損傷が酷く、人の原型をとどめていない。

というのも、敷地を囲むフェンスには、肉片がこびりついているだけで、【骨らしい骨が一切見当たらない】というものである。

まるでフェンスに勢いよく人を叩きつけたかのような、そんな遺体と言うには、あまりにも酷い殺害現場を調べている女性警察官がいた。

シャープペンシルの尻であちこち突きながら、なにかを探しているようだ。


女性警察官「こんなことってどうやったらできるか誰か教えて欲しいわよね・・・(汗)」

女性鑑識官「DNA鑑定できる量は確保できそうですが、今回も身元の特定は無理かもしれません・・・」

女性警察官「盛合さん、歯。できれば歯を探してね。治療跡から割り出せるから」

盛合鑑識官「はい、秋里彩(ありさ)さん。あれっ!あれ~~秋里彩さん、こんなものがありましたけど(笑)」


盛合鑑識官が示したところには、血だまりで汚れた小さな手帳がある、生徒手帳のように見えるが赤黒い血液に染まっていて

中を見開いても何の手帳か見ただけでは判別できない。


秋里彩「身元がわかるものであることに期待しましょうか」

盛合鑑識官「ですね、秋里彩さん。現場終わったら帰りに焼き肉いきませんか?」

秋里彩「いいわよ(微笑)あっ、ダメだ・・・課長に宿題だされてたんだっけ」


慣れているとはいえ、死体を見た後に食事に行く話ができるのは、葬儀屋と警察官ぐらいだ。普通の人はとてもではないがこの惨状を見た後に、

食事など喉を通らなくて普通。食欲が失せるはずである。

盛合鑑識官は、肉片を小袋に小分けしながらいれていく。すべての袋にはアルファベットと番号で区別できるようにしている。


秋里彩「犯人の手掛かりがまったくつかめないから、どうにも手の打ちようがないのよね・・・」

盛合鑑識官「ですね、こんなときに過去に戻れるようなタイムマシンで、犯人を現行犯逮捕!何て簡単にできたら苦労しないですね(苦笑)」


盛合鑑識官は、作業が終わったのか、道具をかたづけ始めた。それにあわせて、秋里彩も現場検証を終わらせる支度をする。

秋里彩と盛合鑑識官はパトカーに戻り、一路、宮古警察署へ向かう。


2011年1月末 宮古市内 宮古警察署


宮古警察署は、市内の磯鶏(そけい)にあり、近くには、宮古商業高校、宮古水産高校がある。

警察が目と鼻の先にあるせいか、学校帰りの女子高生を狙う送りオオカミは思ったほど現れない。

他には、有名合板会社、少し離れた河南には 【三陸メディアアカデミー】がある。【三陸メディアアカデミー】は、美術や音楽にとどまらず、

映画学科、アニメ総合学科、情報デザイン科、シナリオ科など多岐にわたる。

川井市から帰った秋里彩刑事と盛合鑑識官は、宮古警察署内にある刑事・組織犯罪対策課を訪れていた。

秋里彩刑事の名前は、長月秋里彩(ながつきありさ)。盛合鑑識官は、盛合(もりあい)オリエ、名前がカタカナの珍しい名前である。


関口課長「現場検証ご苦労さん、何か身元の特定につながりそうなものは見つかったかな?」

秋里彩刑事「今回も被害者自身からわかるものはほとんど出ていません。ただ、現場に手帳のようなものを見つけたんですが・・・」

盛合鑑識官「最初、生徒手帳か何かと思ったんですが、違ってました。よくわからない文字で文章が書かれています」

関口課長「よくわからない?なんだ、日本語じゃないのか?」

秋里彩刑事「外国語に詳しい佐々木さんに調べてもらってます。今日中にわかるとは思いますが」

関口課長「佐々木刑事からの報告待ちだな。秋里彩刑事、宿題、出来てるよな」

秋里彩刑事「あ~、まだ終わってません(苦笑)明日までに報告書出します」


7件目の事件のことである。一連の不審死事件では、五体満足に被害者が発見された者がいない。

耳だけ、片足だけなど、殺人犯のセオリーどおり身元の特定を遅らせることをやられているケースではあるのだが、

何故か同じ部位で発見されることはない。まるで今まで見つかった部分で一人の人間をパズルのピースにみたてて、

殺害をしているかのように取れなくもない。ちなみに、7件目の部位は眼球が二つだけ、川井中央駅の自動改札の機械の上にわかるように並べてあった。

6件目は、右足だけ。川井市内の歩道橋の階段で見つかった。発見者は最初、靴が落ちていると思ったのだが、よくよく見ると足も靴の中に入っていたのである。


関口課長「初めて、遺留品らしいものが出てきた。犯人に関することがわかるといいのだがな・・・」


秋里彩刑事は、以前、犯人とまったく関係ない人物の持ち物によって、誤認逮捕をしてしまったことがある。

遺留品によるミスリードまで画策してるとは思わないが、一つに事柄だけで決めつけて考える危険性については十分理解していた。

無実の罪をきせることが、どれだけ迷惑なことか。裏は取れるだけ取って、100%の状況までにしない限り疑うことは絶対してはいけないのだ。


2011年1月末 宮古市内 中心部


秋里彩刑事と盛合鑑識官とわかれて、市内の遊興施設に来ていた。

『ビクトリー宮古店』は、宮古駅のすぐそばにある黄色い建物で、14階建ての大型遊興施設になっている。

遊技施設の他に、子供が遊べるアトラクションや託児所も完備されていて、一時期、車への子供の放置が社会問題になっていたのだが、

そういう面もしっかりと対策できるとこである。また、屋内遊園地のようになっていて、特殊景品を使用して、遊具で遊べたりできる。

ひと昔前のオヤジ達だけの遊び場だったものが、家族で連れ立っていける場に変わっていた。

昔は高額なお金を無くすようなギャンブル施設であったが、今は、少ない金額で家族連れで丸一日時間を過ごせる良心的なものになっている。

秋里彩刑事は、遊技施設でのストレス解消が好きだ。昔のギャンブル施設とは違うので市の職員や警察官も遊びにいきやすい。


秋里彩刑事「今日はあまりお客さんいないのね」

マネージャー「はい、川井市の新しい店にお客が流れちゃったんですよ」

秋里彩刑事「お気の毒に、でも、変わらず遊ばせてますよね」

マネージャー「ええ、お客さん第一ですから。店の利益はなるべくお客さんに返していますよ」

秋里彩刑事「お客第一なビクトリー宮古さんで頑張ってくださいね」


秋里彩刑事は、出玉をカードに入れ、遊技を終わらせて席を立とうとした。そのとき、通路を歩く男性とぶつかった。

男性客は、中学生くらいの男の子を急いで追いかけているようで、謝りもせず、子供が消えたほうへ向かう。

ぶつかったときに男性が落とし物をしたのだが、気付いたときには男性客は消えていた。

落とし物は、【 スズ 】だった。三つのスズが革ベルトについている、ちょっと変わった形のスズ。


秋里彩刑事「あっ、落とし物ですよ~・・・って、いないし(苦笑)」


急いで後を追う秋里彩刑事。しかし、どこを見渡しても子供連れの男性は見当たらない。


秋里彩刑事(どっかで見た顔なんだけど、どこだったかな・・・)


秋里彩刑事は、直接、男性に渡して返すつもりだった。

しばらく、その男性をどこで見かけたか考えていたのだが、そのうち会えるだろうと、とりあえず今日はその【 スズ 】を持ち帰ることにした。


【 川井市女子高校生連続不審死事件:END 】

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