「じゃあ、一緒に買い物行こう?」

 

「「いただきます」」


 気を取り直した俺と優奈は、両手を合わせていただきますと言ってから朝ごはんを食べ始める。

 優奈は昔から料理をよくしていた影響か、とても料理が上手なので、俺は期待の眼差しを向けた。


 ちなみに、俺と優奈は向き合うような形で席に着いている。


「おぉ……ザ・和食って感じだな。美味しそう」


 ここで、優奈の作った朝ごはんの品を簡単に説明しよう。


 白米、焼き鮭、玉子焼き、浅漬け、味噌汁。これ以上のものが無いという程の定番メニューだ。

 ちなみに、俺はそこまで納豆が好きではないので、優奈が俺の趣向を汲んで、納豆は無しにしてくれたのだろう。多分。


 なかなか箸を進めない俺に、優奈は揶揄からかうような喜ぶような声を上げる。


「ありがとう。さっきの棒読みとは違ってしっかり心が篭ってるから嬉しいよ」

「お、おう……バレてたんだな……」


 優奈はそこまで怒って無いと判断した俺は、内心安堵しながらも、声が少し弱々しくなってしまった。

 そんな俺の顔を見て軽く笑った優奈は、慈愛の籠った声で――、


「――ま、幼馴染だからね」


 ――俺の顔を覗き込みながら言う。


「――っ、そうだな。幼馴染だもんな。……助かる」


 一瞬ドキリとした俺は、軽く咳払いをしてから言葉を返した。

 優奈は「そうだね」とだけ返事をして、元の体勢に戻って朝ごはんに手をかける。


 なんかヤバいな。俺、顔赤くなってないかな。


 ドギマギする心を抑え込みながら、俺も朝ごはんに手をかけた。


「じゃ、じゃあ。俺も……」


 もぐもぐしながら食べる優奈にそう言ってから、俺は鮭を口に運ぶ。

 鮭を口に入れてから、すかさずお米も口に運び、もぐもぐしながら味わう。


 うん。美味しいな。


 話して所為で少しだけ冷めてしまったが、猫舌の俺には丁度良い温度だったのは違いない。

 俺は迷いの無い評価を口にする。


「優奈の作ってくれた朝ごはん、美味しいね」

「そう?良かった!」


 俺が素直な感想を告げると、優奈は顔にパッと花が咲いたような笑顔で喜んでくれた。


 素直に感想を言っただけなんだけどな……。まぁでも、優奈も喜んでくれて良かった。

 よくよく考えると俺って、何もしてないなぁ……。


 優奈は朝ごはんを俺の為に作りに来てくれた(多分)のに、よくよく考えると俺は何もしていなかった。

 ヒモ男と呼ばれるのも癪なので、俺は何か出来ることがないか考える。……のだが、


 いや、特に何も思いつかないな……。

 優奈に作ってもらった朝ごはんを、優奈に用意してもらった食器で食べる。……あれ?俺って駄目人間??


「あのさぁ……」

「ん?」


 言うて、今の時刻は朝の八時半。

 親たちは東京にいるらしいから時間はかなり空いている。


「折角だから今日、優奈が何かしたいことがあったら付き合うよ。買い物とかだったら荷物持ちとか色々するし!」


 なるべく自分の有用性を伝えようとしながら、俺は優奈に案を出してもらう。

 箸で鮭の骨を抜きながら、俺は優奈の答えを待った。


「うーん……?どうしよっかなぁ」


 箸を止めた優奈が、唸りながら悩んでみせる。

 どうやらまだ考え中なようなので、俺は黙々と食べ続けた。


 確か結構前にテレビで知ったんだけど、食事の最後に味噌汁を飲むと良いらしいな。……旨味が脳の満足度を高く持続するのだとか。

 あと、ダイエット方法にも繋がるらしい……。


 俺がそんな(どうでもいい)事を思い返していると、突如――優奈が声を上げる。


「そうだ!」

「ガバ――っ!」


 突然大きい声を出すものだから、味噌汁を飲んでいた俺には軽いハプニングが起こった。盛大に吐き出すことは無かったが、咳き込む羽目になってしまう。


 ど、どうしたんだ?


「ねぇ和真!何でもいいんだよね?」

「……おう。俺の可能な範囲で、という条件付きだけどな」

「なら良かった。多分和真でもこれくらいはやってくれると思う!」

「その言い方だと、場合によっては俺が侮辱されてることになるんだけど。……まぁいいや」


 何だろう。俺が受け入れなさそうな事なのか……?


 優奈はパクッと浅漬けを口にして、もぐもぐと咀嚼してから、ゴクリと飲み込む。

 きっと特に意味はない動作なのかも知れない。しかし、俺の目線は優奈の動きに吸い込まれていた。


 さぁ、何がくるんだ?出来れば俺も楽しめる事を言ってくれると助かります。


 威勢がいいのか悪いのかよく分からない状態で、俺は優奈の言葉を待つ。


 今度は味噌汁を飲んだ優奈が、満を侍してその言葉を告げる。


「――じゃあ、一緒に買い物行こう?」


 優奈は、明るめのセミロングの髪を揺らし、首を少し傾げながら言った。何故か右腕が差し伸ばされていて、俺に握手を求めている。


「何だ、そんなことか。……了解。んじゃ、ショッピングモールにでも行くか」

「うん、ありがとう。宜しくね」


 朝ごはんはもう食べ終わるし、色々とやるかぁ。歯磨きとか、着替えとか。

 流石に、ダサい格好で行ったら怒られるよな……。


 ふと俺が優奈に視線を向けると、


「あ、折角だからちゃんとした格好で付き合ってよ。隣歩けなくなるから」


 案の定、優奈に指摘されてしまう。


 ま、ですよねー。……て言うか、マトモな格好じゃないと隣も歩いてくれないのかよ。

 やっぱり女子は、ダサい格好の人とは一緒にいたくないのかなー。


 ですよねー、という感想を抱いていると、やや急ぎ足で朝ごはんを食べ終えた優奈が、席を立ち上がって言う。


「ごちそうさま! じゃ、私は一旦家に帰って支度してくるから。洗い物は宜しく!時間とかについてはメールで!!」


 別に今のままでいいのに……という俺の感想を聞くより早く、優奈は立ち去っていく。

 俺は優奈の言動に呆気に取られたが、朝ごはんをまた食べ始める。


 ちなみに食事の最後は、味噌汁で締めにしておいた。


「うん。美味しい。……ごちそうさまでした」


 一瞬にして静まり返った食卓で、独り片付けを始める。


 一人でいるのって、案外静かで物寂しいもんなんだな……。


 無性に、優奈と会いたくなってきて、俺はスマホを手に取ってメールを送る。

 俺が提案した、優奈と買い物に行く時間は、心なしか早かった。

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幼馴染とのほのぼのとした日常 朝凪 霙 @shunji871

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