幼馴染とのほのぼのとした日常

朝凪 霙

「今日は、私と和真の二人きりだよ」

 

 初めに言っておこう。

 恋愛モノを望んでこの小説を読み進めようと思ったそこの君、残念ながら君の望むような物語は描かれない。


 この小説――物語は、俺こと佐藤さとう和真かずまと、幼馴染こと神山かみやま優奈ゆうなの、ほのぼのとした日常を描く――つもり――のだから。


 胸糞悪いNTRも、すれ違いも無い。純粋で素直な幼馴染二人の物語なのだ!



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「はぁぁぁぁあ……眠い……」


 土曜日という休日に、俺――佐藤さとう和真かずまはデカイ欠伸をしていた。

 五秒以上は続いたと思われる欠伸をしながら、俺は階段を降りてリビングに向かう。


 何やら先程から美味しい匂いがしてきていたのだ。きっと朝食ができているに違いない。


 寝ぼけ眼を擦りながらもリビングに着いた俺は、キッチンを覗く。

 するとキッチンには、朝食を作ってくれている母さん――ではなく幼馴染の神山かみやま優奈ゆうなが居た。


「――えっ」

「……おはよう〜」


 俺が思わず「えっ」という声を漏らすと、幼馴染の優奈は何食わぬ顔で挨拶をしてくる。


 あれっ?いつから俺と優奈って結婚したっけ……?


 寝ぼけている所為なのか、俺はよく分かんないことを考えてしまった。

 俺は咄嗟にかぶりを振るい、さっき頭に思い浮かべたことを頭の中から削除する。


 よしっ!顔でも洗いに行くか。


「ちょっと顔洗ってくる」

「はーい」


 きっと顔を洗ってからもう一度キッチンを見れば、正しい現実が見える筈だ。いくら休日だからといって、こんな朝に幼馴染がいる筈は無い。

 俺はそう結論付けながら、洗面台に向かっていた。


 ▽▲▽▲▽▲


 パシャ!パシャ!


「ふぅー……」


 蛇口を捻って冷たい水を出した俺は、パシャ!パシャ!と音を立てながら顔を洗う。

 濡れた顔をタオルで拭いた俺は、思考がクリアになるのを感じながら鏡に映る自分を見る。


「……やっぱり――って言うのもアレだけど、やっぱり俺の顔って普通だよなぁ」


 我ながらに悲しい独り言なのだが、俺の言葉は的を射ていると思う。


 髪型はありふれたショートヘアー、少し癖毛なところが唯一の特徴だ。

 仮令たとえありふれた髪型だと言っても、これで顔立ちが物凄く良ければ「カッコいい」と呼ばれるのだが、残念ながらそれは無い。


 黒髪黒目なのは当然で、死んだ目をしてる訳でもなく、生き生きとしてる訳でもない――つまり普通。

 鼻の高さや口なども多分普通なので、普通だ(二回目)。


「あっ。でも唯一、他人に誇れるようなものはあったな……」


 俺が唯一誇ることが出来るもの。

 それは、幼馴染という存在だ。自身のステータスには直接関わる訳では無いのは少し悲しい現実だが、幼馴染という存在は恩恵を与えてくれた。


 幼馴染こと神山優奈は、まあそこそこ可愛い女子である。――つまり、この事から、俺は女子に対する免疫があると言えるのだ!


 買い物など様々なことを一緒にしてきた事があるから、多分誰かと付き合うこととなっても大丈夫だろう。

 幼馴染――それも女子――という者の存在で、俺が独り身になる未来は消えたんだ!!


 まぁ、魔法使いになることは無いけど、それで良い。百歳以上で童貞のままだと、『神』と呼ばれるらしいが、俺には縁がない話だな! ハッ‼︎


 俺は鼻で笑いながら、キッチンに戻るのだった。


 ▽▲▽▲▽▲


「……な、何だと……っ!!」

「ほら、ふざけたこと言わないで早くご飯食べようよぉ〜。 せ・き・つ・け!」

「ご、ごめんごめん。席に着くから、そのしゃもじを握りしめる手を止めて……!」


 目が完全に覚めてからキッチンにやって来たものの、幼馴染の優奈がいる事には変わりがなくて、俺がその事を驚いていると……、しゃもじを握りしめた優奈が鋭い視線を向けてきた。


 俺は咄嗟に席に着いてから、それだけ――しゃもじで何をしてくるかは分からない――は辞めて欲しいと懇願する。

 もう、何が何だか分からない。


「っ、たくもう〜……」


 優奈はしゃもじを食卓テーブルに置いて、口を尖らせながら声を出した。


 ふむふむ……怒り度数は20というところかな。これなら大丈夫そうだ。


 優奈との付き合いが長い俺は、優奈の怒り度数や幸せ度数を測れるようになったので(自称)、取り敢えず優奈があんまり怒っていないことに安堵する。


「ご、ごめんな。 ……わ、わぁ〜。美味しそうだなぁ〜(棒)」


 もう一度謝ってから、俺は食卓に並ぶ朝ごはんを見て感嘆の声を漏ら――すことに――した。棒読みだったのは……仕方ない。


 少しバツが悪くなった俺は、ふと疑問に思ったことを呟く。


「ん?そういえば親たちは……?」

「あぁ、和真の両親は家に居ないよ」

「えっ?どうして? まさか息子を置いて二人で旅行とか?」

「流石にそれはないよ……」


 どうやら、何故か優奈は知っているようだ、俺の親たちの行方を。

 何で息子である俺は知らないで、幼馴染である優奈は知っているのか、という疑問は頭の片隅に置いておいて(後で親に文句を言う)、何処に行ってるのだろうか?


「親たちは何処に行ってるの……?」

「あぁ、えーっとね……」


 優奈は俺の質問に、一瞬考える素振りを見せた。


 あれ?そんなに言いにくいことなの?


 何だか心配だ。二人は一体何をしてるんだ。俺は遠くにいるであろう親たちに疑い深い視線を向けた(精神的に)。


「和真の両親は今ね。――東京に行ってるの。歌手のライブの為に……」

「は?え……? と、東京⁇」

「う、うん……だから今日は、私と和真の二人きりだよ」


 混乱している俺を他所よそに、優奈は可愛らしく笑顔を浮かべた。


 いや、何でちょっと嬉しそうなんだよ。


 そんなちょっとした疑問はさておき、息子である俺の了解も取らずに東京まで行った親たちに対しての、怒りを声に上げる。


「俺も行きたかったよぉ――!!東京とうきょぉ――‼︎」


 備考。

 俺こと佐藤和真は、凄く東京に行きたい千葉県民である。まる。



「……だ、だから言ったのにぃ……」


 何故か和真の親たちから伝えられていた優奈は、遠い目をしながら嘆いた。

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