照れ隠し

弱腰ペンギン

照れ隠し

「僕のこぶしーが君の顔ーにファイ!」

「あいた!」

 結城君(17歳・男子高校生)が尊ちゃん(18歳・女子高校生)にグーで殴られました。

 とても痛がっています。

「いきなり何すんだよ!」

「いやぁ、なんとなく」

 暴力事件を起こした犯人は、青春においてよくある言い訳を使ってとぼけました。

 いわれなき暴力は単なる照れ隠しなのですが、結城君には伝わりません。

 こうして高校の教室で、一つの椅子を分け合って座るという、高校生には割と高いハードルを越えているのにも関わらず。

「いやさ、私がさ、こうやって慰めてあげているのにも関わらず――」

「慰めに暴力は要らないだろ」

 パーが飛んできました。

 結城君は顔に大きな紅葉(古語)を作りました。

 紅葉はあれです。平手打ちしたときに出来る赤い奴です。知っていますねそうですね。

「おい」

「話を遮るのが悪い」

 確かに、人の話をよく聞きましょうとは言われます。

 でも、暴力もいけないということを、尊ちゃんは学ばなかったようです。

「ちゃんと勉強してるのが悪い」

「えぇ!?」

 放課後の教室で二人っきりだから、尊ちゃんは大胆になっているようです。

 でも、恥ずかしさのあまり拳が出てしまいます。幼馴染ですからね。仕方がないですね。

「なぁ、図書室でやろうよ。面倒だよ」

「調べ物はスマホで出来るじゃん」

「そういうことではなくて……」

 結城君はこの環境が、ちょっと勉強しにくいなと思っているようです。

 隣の尊ちゃんから伝わるぬくもりが、思春期男子にはクリティカルヒットなのでしょう。

「っていうか、隣の机使えよ。そしたら大丈夫――」

「行け、ロケットパーンチ」

 再び尊ちゃんの拳が飛んでいきました。

「私は目が悪いからね。見づらいんだよね」

「この方が見にくいわ!」

 もっともな意見ですが、尊ちゃんには聞き入れてもらえませんでした。

「……私が隣じゃ、嫌?」

「え、普通に嫌」

「ディクショナリーアターック」

 辞書はヤメロと、結城君が必死にガードしています。

 この幼馴染メガネっ子は、今日で決めるつもりのようです。

 しかし、男子のパワーの前に、尊ちゃんの攻撃はすべて防がれてしまいました。

 仕方が無いので普通に教えるふりをしていろいろと接触を試みるようです。

「……いや、離れてくれない?」

「ッチ」

 やりづらいから、という結城君の抗議を受け、尊ちゃんは舌打ちをしながら少しだけ離れました。

 その時です。尊ちゃんに電流が走りました。

 おもむろに席を立つと、結城君の前の席にあった椅子をくるりと回転させます。

 そして向かい側に座りました。

「……それ、教えられるの?」

「気にしないで」

 もちろんできません。するのは制服を緩め、机にもたれかかることです。いわゆるセクシートラップという奴です。

 結城君の視線が、自分の胸に来ていることを確信しつつ、少しだけ寄せてみました。

「あぁもうわかりにくい!」

 見られていませんでした。尊ちゃんはとてもショックを受けました。

 ボディータッチはあんまりうまくいかなかったので、違う方向で攻めてみましたが空振りに終わりました。

 こいつの好みはベッドの下と本棚の一番上で把握しているのに、どうしてよ!

 と、思っています。

 でも尊ちゃんは気づいていません。結城君が問題に集中できないのは尊ちゃんのシャンプーやボディーソープのにおいのせいだと。

 近づくたび、触れるたびに、においが迫ってきている。それが、結城君の集中力をゼロにしていきます。

 今日も、結城君の勉強は進みませんでした。

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照れ隠し 弱腰ペンギン @kuwentorow

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