邪神に魅入られた少女のお話(タイトル未定)

ほぢピ(アローラのすがた)

第一幕

出会いとは何ぞや?

  暗闇の中で声が響く。少女の声。


少女Nナレーション「お立ち寄りの皆様。本日はご来場いただき、ありがとうございます。

開演に先立ちまして、ご来場の皆様にお願い申し上げます。客席内での飲食は禁止となっております。飲食を行う際は、ホワイエにてお願いいたします。

また、本館は全館禁煙となっておりますので、予めご了承ください。

携帯電話、アラーム付き時計など音の出る機器をお持ちのかたは、電源をお切

りくださいますようお願いいたします。

演出上の都合により、上演中は、非常口案内表示を消灯させていただきます。

非常時には再点灯いたしますが、あらかじめ非常口の場所をご確認いただきま

すようお願い申し上げます。

皆様のご理解・ご協力をお願いいたします。 」


  少女の声、途切れる。

  突然ブツブツとマイクノイズのような音。少し流れた後に消える。

  暫くの間。逆再生したテープのような音。暫く鳴り響く。


  開始のブザーが鳴る。

  少女の声、再度暗闇の中で響く。


少女N「お待たせいたしました。まもなく開演でございます。

ホワイエにおいでのお客様は、お早めにお席にお着きくださいませ。」


〇一軒家・少女の家  (昼)


  少女の正面に佇む、黒く全体的にもやがかった塊。

  塊、無数にある目のようなものを朱く光らせて少女を見つめる。


少女「(正面にいる黒い靄がかった塊を見ながら)…………なに、これ」

塊「(きゅるる、と鳴き声を発してから)ユウキサン!」

少女「(塊から出てくる無数の手に飲み込まれる。じたばたともがき抵抗しながら)ぎ、ぎゃーッ!うわーッ!やめろーッ!」

塊「(少女を飲み込む。次第に少女の体内へ消えていく。)」

少女「(暫く抵抗する。)うわあああああ!…………あ、あれ?(体を触る。何も異常がないことを確認してから)なんだったんだ、あれは……」


  暗転。


〇外・どこかの公園  (昼~夕暮れの間)


  少女、ベンチに腰かけている。


少女「(ぼうっと空を眺めながら)あれはいったい、なんだったんだろう」

塊「(体内から声を出す)ユウキサン」

少女「うわあっ!?(ベンチから落ちる)」

塊「(少女の身体から出てきながら)ユウキサン!ユウキサン!すき!(少女に抱き着く)」

少女「(塊から身を守るように縮こまりながら)ひいっ!……ぁえ?え?(抱き着く塊に困惑する)」

塊「ユウキサン!ユウキサン!ぼく、ユウキサン、すきー!(少女に頬ずりする)」

少女「(されるがままで)…………なんだこれは」


  少女、大きな溜め息をつく。

  直後暗転し、すぐ暗転が晴れる。

  少女の正面に突然異形の化け物が現れる。

  異形の化け物、じりじりと近づく。


少女「ひ、ひ、ひ、ひいいいいいい!?ば、ば、化け物おおおおおおお!!(後ずさり。ベンチに体をぶつける)」

塊「ユウキサン?(首を傾げる)」

少女「やばいやばいやばい!け、け、警察!!」

塊「ンー(少女を包み込む)」

少女「わぶっ、なん、なんっ、(すぐに声が途切れる)」


  少女を完全に取り込む。塊だけ佇んでいる。


塊「ユウキサン、すきー。でもおまえ、わるいこだからきらいー」


  地面から大量の触手。異形の化け物を飲み込む。

  異形の化け物、聞くに堪えないほどの苦し気な断末魔を残して消えていく。


塊「(体内から少女を出現させる)ユウキサン、ユウキサン、おきてー(少女を優しく揺する)」

少女「…………はっ!ここはっ。化け物は!?(辺りを見回しながら)」

塊「ユウキサン、おきた!おはよー」

少女「お、おう……って、化け物はどこに!?(塊につかみかかる)」

塊「たべちゃった(朱い目を細める)」

少女「たべたぁ!?(目を見開く)」

塊「うん!おいしくなかった!」

少女「なぁんで食べたんだ!吐き出しなさい!(塊を強く揺する)」

塊「うえー。ユウキサン、めがまわるー。うふふ」

少女「はーきーだーせー!」


  フェードアウト。



〇一軒家・少女の家  (夜)


  少女と塊、ベッドの上で向き合って座る。


少女「で、お前はなんなんだね結局」

塊「(すぐに体勢を崩し、ころころとベッドの上で転がりながら)ぼく、じゃしんー。ユウキサンとおともだちー」

少女「(転がる塊を触りながら)邪神?神話上の生き物ってこと?それにしては結構エグい見た目してるけど……」

塊「うふふふ。ユウキサンとおともだちー」

少女「はいはい……ん?」


  少女、塊を持ち上げる。

  塊の身体から仄暗く紅い光。文字列のように見える。


少女「なんだ、これ……“ユウ、キ……サンが、し……んだ”?うぐっ!」


  少女、突然頭を押さえてベッドにうずくまる。


塊「(少女を揺さぶりながら)ユウキサン!だいじょうぶ?ユウキサン!」

少女「うううう、うぐぅううぁあああぁぁ……」

塊「ユウキサン!ユウキサン!おきて!へんじして!」


  暗転


〇どこともわからぬ廃墟のような場所 (昼)


 二人の少女、互いに向き合っている。


少女A「ユウキサン、絶対二人で脱出しようね」

少女B「絶対だよ……絶対、二人で、脱出しよう」

少女A「(辺りをぐるっと見回しながら)そうとなったら、早くここから脱出する手がかりを見つけよう。もしかしたら、何かあるかもしれない」

少女B「(顔を俯けながら不安そうに)……ねえ、ザキ」

少女A「(名前を呼ばれるとすぐにぱっと顔を向け)んっ?なぁにユウキサン」

少女B「…………あたしたち、何があっても親友だよね?」

少女A「ユウキサン?」

少女B「(弱弱しく少女Aの腕を掴みながら)……絶対に、約束して。何があっても、何があっても……二人で脱出するって」


 少女B、微かに震かなら

 少女A、暫く迷うそぶりを見せたあと、決心したように表情を引き締める。


少女A「当たり前だよユウキサン。たとえ親友だろうとそうでなかろうと。僕は君と必ず脱出する」

少女B「(安心したように)……ありがとう」

少女A「さ、行こう。早く脱出して、家帰って二人でゲームしよう!オンライン対戦でも協力でもさ!」


 暗転。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

邪神に魅入られた少女のお話(タイトル未定) ほぢピ(アローラのすがた) @Hodgi_P

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る