人 三十と一夜の短篇第60回

白川津 中々

 更地に人が集まり家屋ができると道が続き商店の連なりを築いていくうちにビルが建ってついにこの地は国一番の都会として煌びやかな象徴となるまでに至る。


 

 町は街へ。


 人は他人へ。



 時代の移ろいと共に、生活は変わった。何もなく、一房の花を見つけるのも容易だった場所には巨大な建造物が建ち並び、何処に何があるやらさっぱりと分からなくなった。他人達は目的があるように足早に歩くも、実際には目処も立たず彷徨っているばかり。どうして生きているのか、どうやって生きていくのか、どうにもならない悩みに執着しながら日々を送り、死んでいく。死者の墓に添えられる花は何処か遠い場所から来る花でこの地に咲くものではない。街に花は咲かない。生きていけない。夜を照らすLEDが花の代わりとなっている。


 死者を悼む他人はいない。いずれ自分もそうなると思えば、残るのは無常感だけ。それは犀の角が独り歩くようにも感じられたが、蛇の脱皮とは違い囚われ続けていた。無為に生き、時間から脱げ出せない。心の内には、いつも雨が降っている。


 雨に打たれる他人は豊であったが貧しくもあった。街が広がり周りが他となると、どうにも風が吹く。風は嵐となり乱れ、視界を奪い、見えるものが見えなくなって、他人は盲目を患い、暗闇の中で妄執に堕ち、独りで歩いてきたつもりが、人を欲していた事を知る。ある者は他を恐れ、ある者は他である事を嘆き、そして、他人は人に戻っていった。


 他人から人へ戻ると、街は町へと変わり、地には草木が現れ、花もまた、生まれた。人はそれを愛でるが、夜になるとLEDの光を夢見る。そして、人は他人へ、町は街へ……


 時代は流れ、変わりゆく。街はまた町となり、たまに更地となって、そして、町を経て、街へと戻るだろう。人も他人との間を彷徨う。歴史は長く、絶え間なく、等しく同じ変化を繰り返す。暦の数と、同じだけ。

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人 三十と一夜の短篇第60回 白川津 中々 @taka1212384

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