第3話 依頼と理想

 依頼を受けていた場所には本とかゲームやらが

住居のジオラマを再現していた。

「ここは倉庫なのか?」

「今はそうなるわ」

 不思議だと思うのはレインにとって

倉庫は屋外にあり、家の中に雑然と存在しえないもの

あまりに堂々と鎮座するような倉庫は違和感しかない。

「さすがは探偵だな」

「どういう意味かしら?」

 シンと鋭くなった視線に数歩下がりながら

正直に答える。

「探偵は秘密が多いからバレない様に雑に置くと聞いた」

「おっ! 寝落ち探偵を知ってるなぁ?」

 表情に陽光が見えたことで

極寒の視線が暖かくなった。

「名セリフは覚えてる? あれ好きなのよねぇ」

「もちろんだっ! 男の生き様はあの言葉しか彩れない!」

 先ほどの警戒した表情がどこか遠くに吹っ飛ばされ

鼻息荒く前のめりに下から覗き込んだため

謎のサインで唐突にどこかに言い放つ。

【寝落ちはあっても証拠は見落とさねえ!】

 見事にハモった二人のセリフは透き通りつつも低く響いたために

バランスが保たれた心地良い響きだった。

「ねえ・・・・・・ 歌とか興味ない?」

「ん?」

「知らないのかしら・・・・・・ あっ! その手が!」

 ニヤニヤと不気味な笑い声を溢れさせながら

ボイスレコーダーを探し始める。

「そんなに大した依頼じゃないぞ」

「私は小さな依頼でも久しぶりだから興奮しちゃってねぇ」

「大丈夫なのか?」

「信頼しちゃって大丈夫だからねぇ~」

 こちらを見ずに適当に言い放つ辺りが

信頼しにくいのだがと心の中にしまっておく。

「あったぁ~っ!」

 見つけるやいなや頬ずりしながらキスをしようとしたが

埃を被っていることに気がついた。

 頬を手で拭うとすぐさまポケットから

ハンカチとアルコール消毒液を取り出し

磨き始める。

「なぜ日頃から手入れしないんだ?」

「あっ!」

 どうやら昔の癖だったのか頬をポリポリ搔きながら

恥ずかしそうに適当に拭った。

「レイン君は【男の娘】みたいだから人気者になるよ」

「ん? 俺はもとから【男の子】という部類だが?」

少しの沈黙が終わり、気が付く

漢字を知らないから聞き間違えた

つまり【それを知らない】のだろう。

「ねえ、都会ではレイン君みたいな子はね?」

「なんだ?」

「コスプレっていう遊びが流行ってるんだけど……」

コスプレという単語にしっくり来ないというのを

確かめた後にクローゼットから押し付けられ困るほどある

女児用の服を引っ張り出した。

「じゃーんっ!」

「だからなんだ?」

そういえば着せる理由が遊びだと

強制が出来ないなと気が付いた曇女は

スマホを開き調べ始めた。

「二次元しかないか……」

「にじげん……?」

難しく考え込んだ後に妙案が浮かぶ

【人探しをするなら表に立つ】

これは寝落ち探偵の話にある

伝説の回である六話

《いなくなった姉はどこ?》の中で

弟が姉を探すために女装し、裏のハッカーになった姉を

釣るという先進的な内容で放たれるセリフである。

「もしかしてだけど依頼は人探しかなぁ?」

「違うが?」

「ん? じゃあ何の依頼なの?」

依頼内容が話じゃ伝わらないと服をおもむろに脱ぎ始めた

そして鳩尾にある紋様を指さしながら

説明を始める。

「これは雨の神様から

刻まれる印と伝わる痣【雨龍陣あめたつのご】だ

これを浄化してほしい」

キョトンと意味がわからずに鳩尾が落書きか何かだろうと

確かめるついでに寸法を目安で覚える。

「これって傷でも絵具でもない?」

幾何学というよりゲームのイラストみたいだが

皮膚に元から存在したと錯覚するほどに自然体なのだ。

「確かにうちでは不思議な案件を請け負ったことは

何度もあるけど……」

そう言いながら案件をまとめたファイルを探し

後ろの古い棚をガラガラと開く。

廃神社や心霊スポットで起きた事件に

行方不明まで多彩に記録してあったファイルから

人体に刻まれた紋様についての記述を探した。

「これに似たものだと【水龍】か【水蛇】があるけど

どれもそんなに大きくないわね」

「雨宮という苗字ではないのか?」

「えっ?」

盲点だったのか驚いた後に

しばし瞑目する。

記憶に映されたのは祖父から口酸っぱく言われた

ある家系のことだった。

「もしかして天空クレアさんって知ってる?」

「母の名前だが…… なぜ知っている?」

分家であり、消息を絶ったとされる依頼で

悲惨なことになった【天空家】のご子息が目の前で

案件を持ってきた。

「これはもしかして……」

「依頼は受けられないのか?」

「いえ、是非とも我が《雨宮相談処》で請け負います」

口調がビジネスモードに入る曇女に

一息入れて安心するレインはもう一つの

手がかりをポケットから取り出した。

「これは母の形見で最後の言葉である」

「まさか【雨鏡あまつかがみ】を持っているなんて……」

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雨宮さんとレイン君 あさひ @osakabehime

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