第44話 異世界定食、始めました 4



「……」


 大賢者アルガロ、あらためアルトは一人、居城で悩んでいた。


「どうしたのですか、アルト」

「美味い物が食いたい」

「え?」

「美味い物が食いたいぞ!」

「えぇ!?」


 アルトは突如として、跳ね起きた。


「うおおおおおおぉぉぉ!」

「アルト?」

「行って来るぞ、ミーロ!」

「アルト!?」


 突如として生気がみなぎったアルトは、空間移動テレポートした。



 × × ×



「今日も皆、よく育ってるなぁ~」


 あはは、と笑いながら農園の主、ノエルは農地を育てていた。


「この間もらったお金で僕の農園も大きくできたし、アルト君には本当に感謝だなぁ」


 アルトからもらった金貨でノエルは農地を改良し、より広い田畑を耕していた。


「……ん?」


 大きな魔力の波動を感じ、ノエルは反射的に上を向いた。


「腹が、減ったぞ!」

「うわあああああああぁぁぁぁ!」


 突如として大きな魔力の波動、うねりとともに、元大賢者アルトが空間移動テレポートをしてやって来た。

 アルトの常軌を逸した魔力により、空気が震撼する。


「む、どうした、ノエル」

「どうしたじゃないよぉ~!」


 ぷんぷんと怒りながら、尻もちをついたノエルはアルトに抗議する。


「皆怯えちゃってるじゃないかぁ~!」


 農園にいた小さな命、農園を守る大樹、そして、ノエルの周りの豊かな自然たちが怯えている様子を、ノエルは肌で感じ取っていた。


「すまない、まさかこの程度の魔力で影響があるとは……」


 予想外の出来事に、アルトは頭を下げる。


「全く……! アルトは自分がどれだけの魔力を持ってるか自覚しなさい! アルトは自分自身の魔力に対して自覚がなさすぎるよ! 試験会場で――」

「分かった、分かったよ。悪かった、許してくれ」


 アルトは平謝りをする。


「全くもう……!」


 ノエルは頬を膨らましたまま、ぷい、と顔を逸らした。


「そんなことより、だ。ノエル」

「何?」


 ノエルは片目を開けてアルトを見る。


「美味い物を食いたくないか?」

「美味いものぉ?」


 ノエルは胡乱な表情でアルトを見た。


「そりゃぁ、食べたいけどさぁ……」

「どうやらサクラメリアの一番街に新しい料亭が出たらしくてな。この料理がまた、見たことのないような創意工夫で、絶品というらしい」

「へ、へぇ~……」


 想像するだけで、ノエルは垂涎してしまう。


「なにやら、異世界料亭香というらしい」

「いせかいりょうてい、かおり?」

「ああ。絶品であると同時に、その店の料理が、昔を思わせる郷愁の味のようでな。気骨の強い女店主が一人で店を回しているそうだ」

「へぇ~。サクラメリアの一番街に……すごいなぁ」


 もはや誰もいないような外れで農園を営むノエルにとっては、手が届かないような高級な立地だった。


「行きたいけど、ごめんね。今日はまだ水やりが終わってないんだ」

「……ん?」


 アルトは後ろを見渡した。


「おおおおぉぉぉ!!」


 以前見た時の農地から比べ物にならないほどの規模に拡大していた。


「これは数倍……いや、数十倍は広くなったんじゃないか!?」

「うん! あの時アルトにもらったお金で開拓したんだぁ~」


 外れスキルと言われている神庭ティアガーデンを持つノエルにとって、農地を拡大させることなど、造作もなかった。


「ありがとうね、アルト。僕に出来ることがあったら全然気兼ねなく言ってね!」

「そうかそうか。殊勝な心掛けだぞ、小僧」


 はっはっは、とアルトは大きく笑う。


「だが、水やりがまだ……か。ふむ」


 アルトは農地を見やる。


「確かに、この規模の農地に水をやるだけでも一苦労だな。どれ、浮遊フロート

「アルト?」


 アルトは浮遊し、農地の真ん中に位置取った。


「……」


 アルトは上空にめがけ、人差し指で狙いをつける。


水砲ウォーターショット

水砲ウォーターショット?」


 水属性魔法の中でも低位の魔法。

 だが、アルトが放てば、その規模は上位魔法のそれを、はるかに凌駕する。


「えええぇぇぇ!?」


 上空に向かって、大きな水泡が放たれる。


風砲ウィンドショット!」


 風属性魔法の中でも低位の魔法。

 水泡の放たれた方向に向かって、アルトは風の砲撃を炸裂させた。


「うわああああああぁぁぁ!」


 強風が上空に向かって吹き荒れる。

 そして想像を絶する大きさの水泡に風の砲撃が当たったと同時に、


「うわああぁ……」


 大きな水泡はパァン、と破裂し、円形に広がるようにして、大量の水が、降った。


「す、すごい……」


 ざああぁぁ、と大量の水が、農地一面に降り注ぐ。


「こんなものか」


 空間移動テレポートでアルトが、ノエルの下に帰って来る。


「すごいすごいすごい! すごいよ、アルト!」


 やったぁ、とノエルはアルトに抱き着く。


「おいおい、止めろ止めろ。これくらい」


 アルトは、あはは、とノエルの背中を叩く。


「すごいよ、アルト! なんでこんなにすごいの!? 何者なの、アルトは!?」

「しがない魔法学校の学生だよ」

「魔法学校の学生って皆こんなこと出来るの!?」

「当たり前じゃないか。魔法学校に通ってれば、誰でもこれくらい出来るんだよ」

「すごいや、アルト!」


 わああぁぁ、とノエルはぴょんぴょんと跳ねる。


「よし、水もやったことだし、行くぞノエル、異世界料亭、香へ!」

「うん、しゅっぱ~つ!」


 ノエルは農地の守護神、シルヴァに農地を頼み、アルトと共に異世界料亭へと赴いた。



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無能の烙印を押されましたが実は最強チートでした、な奴だらけの街 ~転生賢者・最強村人・外れスキル・常識知らず・パーティー追放・異世界召喚・中年おっさんたちが大暴れ~ 利苗 誓 @rinae

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