私は、人並を知りたい。そして本気を出したい。

多賀 夢(元・みきてぃ)

目覚めが遅すぎた人間の戯言

 私が受けていた虐待について、全てを語れることはないと思う。

 実際、自分の過去をモデルにした小説を書いているけど、私が父母にされたことを書こうとすると、脳がバグる。語彙が欠落する。


 今思えば、家畜のような扱いであった。

 いやそれ以下か。家畜は働いたら報酬と手入れが与えられるが、私は叱責された記憶しかない。もっと出せ、もっと絞り出せ、倒れるまでやれば出るはずでしょうと、情けない生き物を見る目で蔑まれ、時に怒りを露わに殴られ、兄弟への見せしめにされた。


 だから私は、いつも『人並』を知りたいと思う。

 どこまでが人々が認識している普通で、どこからが私の才能なのか。

 普通を下回ると、挽回の余地は本当にないのか。


 派遣先で作業を頼まれた時、てんで集中できなかったことがある。

 それでも子供時代の癖が抜けないのか、掃除をしたり、書類を整理したり、なんのかんのと働いてはいたけれど、頼まれた作業が続かない。

 もうすぐタイムリミットだというときになって、やっと仕事を完成させた。私の評価ではズタボロだ。この倍できるはずだろうがと、自分を責めた。


 私は、それを派遣先の上司に提出した。

 上司は確認した後、「ありがとう」と笑って受け取った。

 お咎めは一切なし。正直、拍子抜けした。

 求められているのは1時間程度でできる成果だけ、そう悟った一瞬だった。

 それ以外は、何をしても構わなかったんだ。きっと今までも。



 しかし私は、サボりたいわけじゃない。その逆だ。

『もっと没頭したらどれだけ凄くなるのか』を体感したい。

 私の気質は芸術家や研究者に近い。

 命をかけて何かを創り上げたいのだ。発見したいのだ。

 子供時代から、結婚にも出産にも興味がない。

 アトリエや研究室にこもって、『創ること』を夫として生きていたかった。


 褒められたい願望は少しならある。だけど、私にはすぐそれが邪魔になる。

 私の目標が、他人の評価じゃないからだ。ひたすら『創ること』だからだ。

 それは成果物がない仕事でも一緒だ。自分なりの完璧な接客をとか、お客様がより喜んでくれるアナウンスをとか、常に工夫し、知識を取り込み、果ての無い上を目指して努力する。


 私の母は、まれに私が思い通りの結果を出すと「褒めて遣わす」と言った。

 今だから言うよお母さん、そういうお前は何をした?

 私の手柄は、どうやってもお前の手柄にはならない。

 でもお前のおかげで、私は人に褒められる事が嫌いになった。

 人並を超えて、その先に向かうことしか興味のない人間になれた。


 ちらっとは、自分の年齢を考える。

 だけどその次に、だからどうしたという闘志が湧いてくる。

 今だから創れるものがある、今だから吸収できる事もある。

 すべては、人並を超えた先にある達成感のため。

 孤独だろうが知ったこっちゃねえ、それさえ掴めれれば命もいらねえ。


 もっと光を。賛辞よりも、たった一つの光を。

 私はきっと、一生ハングリーだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は、人並を知りたい。そして本気を出したい。 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ