エイプリルフールにプロポーズしてみた。
ブリル・バーナード
エイプリルフールにプロポーズしてみた。
毎年4月1日はエイプリルフール。
嘘をついてもいい日だ。午前中に嘘をつき、午後にネタ晴らしをするらしい。
今年、俺はとっておきの嘘をつくつもりだ。
大学のマドンナに『プロポーズ』をする!
誰もが嘘だとわかるだろう。
こういうのはあり得ない嘘をつくのがいいのだ。
嘘だとわかりやすい方が相手も察してくれるから。
プロポーズをする予定の大学のマドンナは同学年。でも、他学科。
お金持ちのお嬢様らしい。
いくつかの講義で同じクラスになるくらいの関係。いわゆる顔見知りだ。
恋人でも婚約者でも何でもない。
そんな相手に俺はプロポーズをしてみる。まあ、嘘のだけど。
マドンナに彼氏がいないことも事前にリサーチ済み。
「お待たせいたしました」
事前に呼び出していたレストランに彼女がやって来た。
艶やかな長い黒髪。パッチリ二重。高い鼻梁。右目下の泣き黒子。ぷりっとした唇。
あらゆる方向から眺めても途轍もない美人だ。
今日は少し肌寒かったので身体にぴったりしたセーター系の服にフレアスカート、そしてカーディガンを羽織っている。
……意外とお胸が大きいんですね。流れるようなくびれ……美しい。
よかった。来てくれないかと思った。今日の呼び出しが嘘だと思われたんじゃないかとヒヤヒヤした。プロポーズできないかもと焦ったぞ。
あまり長くいるとこちらの心臓が壊れそうなので、手っ取り早くこちらの要件を済ませよう。
「あの……俺と結婚してください!」
よしっ! 言えた! ミッションコンプリート!
第一声でプロポーズしてしまった。もう少しお喋りしてから嘘をついたほうがよかったか?
「……えっ?」
大きな瞳を更に見開くマドンナ。突然のことに理解が追い付かなかったんだろう。
10秒ほど固まった彼女は、両手で顔を覆った。
「うぅっ……うぅ~……!」
そして、泣いた。
嗚咽を漏らし、指の隙間から透明な涙が零れ落ちる。
予想外の出来事に、今度は俺が固まってしまった。
プロポーズはやりすぎだっただろうか? 彼女を傷つけてしまったのだろうか? 地雷を踏み抜いたか?
頭の中で後悔と罪悪感という言葉が浮かんでは消えない。
気まずい。
3分ほど経つと、彼女は落ち着いた。
「申し訳ございません。つい取り乱してしまって……」
「い、いいや。こちらこそごめん。いきなりこんなことを言って」
まさか泣かれるとは思っていなかった。別の嘘をつけばよかった。
「それでですね、プロポーズの件ですが……」
「は、はいっ!」
嘘だけどね。エイプリルフールだとわかっているんだが、声が裏返ってしまう。
「こちらこそよろしくお願いします!」
嬉しそうに微笑み、頭を下げるマドンナさん。
「……はい?」
俺は再び固まった。
えーっと、プロポーズが了承された? 全然接点がない俺のプロポーズが?
いやいや待て、俺よ。現実なわけがない。これは夢……いや、違う!
――そうか! 彼女も嘘をついているんだな! エイプリルフールだから!
なるほど。午後になったらネタ晴らしするつもりだな?
プロポーズが嘘だと気づき、それに乗じるように嘘をつくとは……君、なかなかやるな!
わかってるわかってる。全てわかっている。君の嘘に乗ってやろう。
「そうか。よかった……急なことでびっくりしたよな?」
「はい。でも、とても嬉しいです」
「まさかオーケーされるとは思っていなくて、指輪も準備してないんだ」
女性がオシャレで付ける指輪くらい準備しておくべきだったかな?
いや、そこまでしたら嘘だとわかりにくいか。はっきりとわかる嘘だから良いのだ。
「あっ、婚約指輪でしたらここに」
バッグから出される箱。その中には豪華そうな、でもシンプルなデザインの指輪が二つ収められていた。
えっ? なんでっ!?
「こういうこともあろうかと」
嘘にしては準備が良すぎない!? 君の嘘に乗ってあげますけど。
って、サイズがぴったり!? どうやって俺の指のサイズを測ったんだ?
お互いに指輪の交換が終わった。
左薬指に嵌められた指輪を眺めてマドンナが嬉しそうに微笑んでいる。
くっ。可愛い。
「では、こちらに記入を」
次に差し出されたのは一枚の紙。
「これは……婚姻届?」
「はいっ!」
笑顔が眩しい!
何という準備のよさ。俺以上に今日のエイプリルフールを楽しんでやがる。
こうなったら君の嘘にとことん乗ってやるぜ!
嘘の婚姻届にもスルスルと記入していく。
「次は、両家の挨拶を」
その瞬間、四人の人物が俺たちのテーブルに加わった。
って、父ちゃん!? 母ちゃん!? なんでここに!?
俺は混乱する中、挨拶が行われた。
残りの二人は、ダンディなおじ様と綺麗なマダム。マドンナのご両親だって。医者と大企業の社長らしい。
お嬢様は嘘をつくためにこんなこともするのか! 流石金持ち! 庶民の俺には想像もできなかったぞ。プロポーズごときでウキウキしていた俺が恥ずかしい。俺の負けだ……。
「「 娘をよろしくお願いします 」」
「「 バカ息子をよろしくお願いいたします 」」
両家がペコペコと頭を下げ合っている。
つーか、痛い痛い! 父ちゃんも母ちゃんも無理やり息子の頭を下げさせるな! 髪の毛が抜ける!
それを見ているお嬢様はニコニコ笑顔で微笑んでいるだけ。
「では、行きましょうか」
「……どこに?」
腕に抱きついたお嬢様が桜の花のように美しく笑う。
「市役所ですっ」
高級車に乗り込み向かった先は本当にただの市役所だった。
さすがお金持ちだぜ。両親まで巻き込むのでは気が済まず、公的な機関である市役所まで巻き込んで嘘をつくのか。すげぇーな!
そこで俺たちは婚姻届を提出した。
父ちゃん、母ちゃん。嘘だとわかっているのに号泣するなよ。二人の演技力はわかったから。上手すぎだろ。アカデミー賞狙えるぞ。
いろいろな手続きを済ませ、両家からの祝福も終わり、マドンナに連れられて到着したのは、高級住宅街の見知らぬ一軒家。
「ここは?」
「今日から私たちが住む愛の巣です!」
えーっと、お嬢様? エイプリルフールのために家まで用意したのか? 規模が違いすぎません? 嘘は午前中までだぞ?
エイプリルフールのルールを意外と知らない人が多いんだよな。
まあいいや。気が済むまで付き合ってあげよう。
俺の荷物が寝室に入っていて驚いたり、マドンナの料理に舌鼓を打ったり、風呂に入ってこようとするマドンナとドアの前で格闘したり、本当にいろいろあった。とても疲れた。
――そして今、寝室のダブルベッドの上でネグリジェ姿のマドンナが俺の身体に覆い被さっている。
なにこの状況?
「ふふふ……やっと私のものになってくれましたね。想って想って想い続けて、計画を立て、準備して、外堀を埋め、いざ実行しようとしたときに貴方からプロポーズをしてくださるなんて、やはり私たちは結ばれる運命だったのです!」
もはや嘘というよりも演技だな。
まさか初めてのエイプリルフールでノリノリなのか?
「もう離しませんよ。私たちはずっと一緒です」
開き切った虹彩。コールタールのようにドロッとした闇が広がる瞳。血のように赤い舌。ニヤリと吊り上がった唇は死神の鎌のよう。
ゾッとする程美しい。
「――さあ、一つになりましょう?」
ふわっと甘い香りが広がり、お互いの顔が近づく。息がぶつかる。唇が触れ合う。
濃厚なキスをされながら、俺は思う。
えーっと……ネタ晴らしは?
今日の出来事は全て嘘……だよね?
エイプリル……フー……ル……だよ……ね?
誰か! ネタ晴らしをしてくれ! 俺にエイプリルフールの嘘だって言ってくれぇ~!
「うふふふふふ……」
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ノリと勢いで書きました。
こちらが女性視点の作品です。
↓
【エイプリルフールにある計画を実行しようとしたら、相手がプロポーズしてくれたので、利用してみた。】
エイプリルフールにプロポーズしてみた。 ブリル・バーナード @Crohn
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