終章 / Epilogue(3)



「それまでは、殿下と接すると息苦しくなって……息を吸うのも辛かったのに。殿下に『キス』をしてもらったら、治るんですけど……っ」


キスで治るだなんて、素敵な呪詛っっ!!

アリシアは目を輝かせたけれど、セリーナ当人にとってはとても辛いものだ。


「公爵様に加護をいただいてから、それが無くなったんです。呼吸って、普段あたりまえにできているものだから、ずっと気付かなくて。ガンダルフ先生からお薬もいただいていましたし、その効果だと思い込んでいたのもあります。でも、お薬を飲まなくなっても、全然平気で……」


「カイル殿下とあなたが結ばれたから、呪詛が消えたのでは?」


「私の両親は、昔から毎日たくさんキスをして……単に仲が良いからだと思ってたんですけれど、気にして見てみると、母は私と同じ息苦しさをずっと抱え続けていて」

「つがいと結ばれても、呪詛は消えないのね?」


「はい、もちろん……消えません。ロレーヌの伝承によれば、美貌を取り戻したヴァンデールが受けた新たな贖罪は女児に継がれます。実際に、母から女児の私へと引き継がれていますから」


「そう、よね……」


「だから怖いんです。もしもこの子が“女児“なら……この子にも、私と同じ苦しみを背負わせる事になるかも知れないって」



『つがい』に出逢い、結ばれなければ。

生涯誰とも結ばれることはなく、惨めな容姿のまま生きる———。



「構わぬ」


黙ってしまったふたりの沈黙を破ったのは。

カチャッ。ソーサーに置かれたティーカップの接触音おと


「構わぬと、言っている。セリーナは、ただすこやかな子を産むことだけに意を注げばいい。もしもその子が嫁げなくとも、腹中はらなかの子は孤独ではない。幸いにも、両親と二人の良い兄にも恵まれている。父親の俺が愛情を注いでやるよ……つがい以上のな!」


「カイル……」


「前にも言っただろう?おまえが背負う運命を俺も共に背負うと。子の運命も同じだ。だからもう案ずるな。悲観的なことを言ったが、運良く『つがい』と繋がることもあろう?」


そこに二人の幼い皇子たちがぱたぱたやってきて、カイルの肩を揺さぶった。


「ちちうえっっ。僕らの剣の相手をしてください!」

「お、やるか。父は手加減しないぞ?」


ラエルとアルベルトから揃って手を引かれ、席を立ちながら。

壮年となった今でも、カイルは出逢った頃と変わらぬ美麗な面立ちを破顔させ、『まだ女児と決まったわけではないのだしな!』と、爽やかに笑うのだった。



だが——セリーナは、知っている。

ぼやけた夢の中で笑う、双子の皇子と、彼らの妹——『皇女』のことを。



「苦しくなくなったと言うことは、公爵様の『ご加護』が何らかの形で影響していて、呪詛が弱まっているのかも知れないわね?」



『これはわたしが宮廷を去っても続きます……永遠に。愛情の神の加護を受け、どんな困難も必ず良い方向に向かう筈です。』


どんな困難も、必ず良い方向に——。



加護の影響がどれほどのものだか、はっきりとは、わからないけれど。

セリーナは確かに今、宮廷ここにいる。


愛するカイルの皇妃となって。


テラスのかたわらで皇子たちが父親と剣の練習をし始めるのを、セリーナは頬を緩ませ、幸せに揺れるみどりの眼差しで見つめる。

双子の皇子たちは、カイルのミニチュアのようにそっくりだ。



『実感は無くても、加護は生き続けます……いつかわかりますよ。』



「ぁ……」


視線の先に、温室の屋根の上を飛ぶ、二匹の蝶。


愛おしげに下腹部に両手を当てて、心の中で祈る——どうかこの子にも、神様のご加護がありますように。


セリーナの心配をそっと笑うように、優しい緑の風が吹く。

テラスに溢れる笑顔をさらい、未来へと、運んでいく。



セリーナは、美しい蝶に夢を見る——…。



二匹のは仲睦まじく互いにはねを触れ合わせながら……

青い空の向こうに、ふわふわと、ゆっくりと羽ばたいて行った。







《おしまい》




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【番外編(短編)】月夜に咲く花は皇太子の寵愛を受けて輝く〜ファーストダンスを踊る日に〜(八話完結)


婚礼の儀から二ヶ月後のふたり—懐妊中のセリーナを悩ませるカイルの『疑惑』とは?!


*番外編(短編)の方も、よろしければ覗いてみてください*




【おまけストーリー】〜アドルフとアリシアの婚約エピソード〜


*このタイトル内で更新予定です*




【新作】『幼獣と皇女様』

〜獣に姿を変えられた美貌の王太子が毎夜のごとく迫ってきます〜


(再び呪詛がらみですが@@;カイルとセリーナの子供たちがメインキャラとして登場する全く新しいストーリーです。)


憧れ続けた『婚約者』は、素性を隠したリヒト。

そのことに気付かない皇女エリスティナは——。


『大切な「婚約者」がいますから、「あなた」と結ばれるなんて無理です。』




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完結いたしました……!


途中、辛い展開もありましたが、最後までついてきて下さった皆様。

本当にお礼の言葉も見当たりません。


序盤からここまで応援下さった方々……!

足跡を残してくださり、本当に有難うございました:;(∩´﹏`∩);:…♡

なので通知にてお名前拝見できなくなること、とてもとても寂しく思います。

皆様と……またどこかで、素敵なご縁がありますように。


そして足跡がなくとも、読みにきて下さっていた方々!感謝の嵐が止みませんっ。:;(∩´﹏`∩);:


初めて書いた小説を《完結》まで持ってこられたのは、ひとえに読者の皆様のお陰に他なりません。


本当に……!!ありがとうございました。

そしてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。


心からの感謝を込めて。


七瀬 みお



作品への★評価は、コンテストや次作への大きな励みに繋がります。 

*どうぞよろしくお願いいたします*




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蟲姫は美しい蝶に夢を見る〜見目麗しい殿下でも抱きしめられたら突き飛ばします〜 七瀬みお@『雲隠れ王女』他配信中 @ura_ra79

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