お別れに必要なこと

尾八原ジュージ

全部捨ててしまおう

「ひーくんのための私」は、今日で卒業してしまおう。


 クローゼットを開けて、ひーくんのために買った彼好みの服を片っ端から捨てる。彼の身長に合わせたローヒールもゴミ袋に入れる。ペアのカップは私の分も不燃ゴミだ。彼がくれたちょっと高い鍋も、もったいないけど捨てよう。

 私はひーくんのために自分の生活を変えてきた。だから色んなものを処分しないと、すっきり卒業できない。

 少しでも彼の痕跡が目に入ったら、きっと引き摺ってしまう。


(重いんだよ、お前)


 浮気したひーくんにそう言われたこと、本気の喧嘩をして傷ついたこと、全部忘れて古い自分を卒業する。

 もう彼を全然好きじゃないと言ったら嘘だけど、そうするのがきっと一番いい。


 ひーくんのバスタオル、シャンプー、枕、買い置きのコンドーム。全部ゴミ袋に突っ込む。

 彼のために飼い始めたハムスターは、首を折って新聞紙で包む。彼好みのジェルネイルも、リムーバーがないので爪ごと剥いでしまう。十枚の爪をゴミ袋に入れ、指に絆創膏を巻く。


 さて、あとはバスルームに置きっぱなしのひーくん本体だけかな。


 さすがにハムスターみたいには行かないだろうと思いながら、私はとりあえず新しいゴミ袋の口を開く。

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お別れに必要なこと 尾八原ジュージ @zi-yon

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