ロウザンノマ
オボロツキーヨ
君はロウザンノマを知っているかい?
青森県の下北半島の東端、
わいの村では老若男女で漁の合間に、黒松を植えて
尻屋崎燈台は有名だろう。青い空と輝く白波を背に、緑の牧草地に建っている白亜の燈台の姿は
でも、尻屋崎沖は海の難所だ。春夏は潮流が速くて濃霧で視界が悪い。冬は
船の遭難は見慣れていたが、大正十一年六月のあれには驚いた。わいは小学生だった。村の海岸から数十メートルの浅瀬で、空と海を覆い尽くすような巨大な軍艦が座礁して、船首を村に向けて南北にそびえ立っていたんだ。全長百二十五メートル、七千六百トンの佐世保鎮守府の特務艦だった。第一次世界大戦の山東半島での戦利汽船だそうだ。
見物人も多くて、静かな村は連日大騒ぎさ。そのうち新聞記者たちが、わいの村が裕福だと言い出した。東京から迷惑な学者たちも調査に来た。原始共産制の村だと。何のことやら今もわからん。収穫した昆布を村人皆で平等に分けているのが珍しかったのか。当たり前の事だよな。それとも東京では物を皆で平等に分けないのかい。
村での娯楽といえば男は酒を飲むか
何だ君、眠たそうな顔をして。まだ起きていろよ。やっとここでロウザンノマとは、何かわかるぞ。坊さんに漢文を教わっただけで、わいのように漢文に精通できると思うかい。坊さんが持っていた漢文の本は一冊だけだった。うん、そうなんだ。君の
つまり、ロウザンノマのおかげなのさ。海からの贈り物とでも言うべきか。下北半島の海は凄い。海の幸だけではない。人や物をどっさり運んでくれる。
尻屋崎燈台から太平洋岸を四百メートル下ったミサゴ島とダッコ島の間に小さな湾がある。そこに労山は鎮座していた。だから湾のことを漁師たちは「
労山にはたくさんの本が積み込まれていた。論語、孟子、七書などの漢籍が多かったが、雑誌もあった。その本がすべてわいの村に寄贈された。今も労山文庫として大切にされている。漁村に蔵書豊富な図書館ができたというわけだ。読み放題さ。
おや、もう消灯の時間。寝るとするか。ちなみに三余会の三余というのは<冬は歳の
参考文献「下北地域史話」三浦順一郎
ロウザンノマ オボロツキーヨ @riwa
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