宋書武帝紀少帝紀 詔勅上表

劉裕82 決起檄文 上  

桓玄かんげん打倒のときの檄文。

関連は

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888050025/episodes/1177354054888491331



夫治亂相因 理不常泰

狡焉肆虐 或值聖明

 そもそも治と乱とは

 それぞれを原因とする。

 理とは常に不安定な物であり

 狡き者も、

 ある時は悪として扱われるが、

 ある時は聖明として扱われもする。


自我大晉 陽九屢構

隆安以來 難結皇室

忠臣碎於虎口 貞良弊於豺狼

 我らが大いなるしん国においても、

 陽九の厄、即ち災いがしばしば生じ、

 今上の陛下がお立ちになられてより、

 皇室は司馬道子しばどうし元顕げんけんに恣とされ、

 忠臣は虎口に噛み砕かれ

 貞良なる者は豺狼のごとき者がらに

 虐げられてきた。


逆臣桓玄 陵虐人鬼

阻兵荊郢 肆暴都邑

天未亡難 凶力繁興

踰年之間 遂傾皇祚

 中でも、逆臣桓玄。

 祖先の霊を虐げ、

 荊州けいしゅうていの都に集めた兵力により、

 建康けんこうを荒らして回っている。

 天はいまだ亡び去ってはおらぬが、

 凶力は繁興し、そして年が明ければ、

 遂には簒奪の大逆がなされた。


主上播越 流幸非所

神器沉淪 七廟毀墜

 帝は追放され、

 辺鄙な地へと追いやられ、

 神器の権威は失墜し、

 皇室のみたまやは打ち壊された。


夏后之罹浞豷

有漢之遭莽卓

方之於玄 未足為喻

 の時代には寒浞かんさくやその息子のえいが、

 相王しょうおうを殺して簒奪し、

 かんの時代には王莽おうもう董卓とうたく

 それぞれ帝をないがしろとしたが、

 桓玄の悪事たるや、これらと比しても

 まだ足りるものではない。


自玄纂逆 于今歷年

亢旱彌時 民無生氣

加以士庶疲於轉輸

文武困於造築

父子乖離 室家分散

 桓玄が纂逆して後、年をまたぎ、

 今日に至るまでに、亢旱の禍が続き、

 民からは生気が失われている。

 桓玄主導の移住政策で士庶は疲弊し、

 御殿の建築事業では

 文武百官が苦しめられ、

 父と子は離れ離れとなり、

 本家分家も結束を断たれた。


豈唯

大東有杼軸之悲

摽梅有傾筐之塈

而已哉

 このような悲劇、

 詩経「大東だいとう」にある杼軸じょじくの悲、

 あるいは「摽梅ひょうばい」にある傾筐けいきょうの塈

 と比喩するのすら生温いではないか。


仰觀天文 俯察人事

此而能久 孰有可亡

凡在有心 誰不扼腕

 天文を仰ぎ見、人事を俯して眺めれば、

 ここまでは耐え忍んでこそいるものの、

 やがては衰亡は免れ得まい。

 およそ心あるものであれば、

 誰もが扼腕せずにおれまい。


裕等所以叩心泣血

不遑啟處者也

是故

夕寐宵興 援獎忠烈

潛搆崎嶇 險過履虎

 我々は叩心泣血し、

 心やすらう事もなかった。

 故に宵闇に紛れて忠烈の徒を支援し、

 伏して大過をしのぎ、

 事が漏れぬよう慎重にことを進めた。




夫治亂相因,理不常泰,狡焉肆虐,或值聖明。自我大晉,陽九屢構,隆安以來,難結皇室,忠臣碎於虎口,貞良弊於豺狼。逆臣桓玄,陵虐人鬼,阻兵荊郢,肆暴都邑。天未亡難,凶力繁興,踰年之間,遂傾皇祚。主上播越,流幸非所,神器沉淪,七廟毀墜。夏后之罹浞、豷,有漢之遭莽、卓,方之於玄,未足為喻。自玄纂逆,于今歷年,亢旱彌時,民無生氣。加以士庶疲於轉輸,文武困於造築,父子乖離,室家分散,豈唯大東有杼軸之悲,摽梅有傾筐之塈而已哉。仰觀天文,俯察人事,此而能久,孰有可亡。凡在有心,誰不扼腕。裕等所以叩心泣血,不遑啟處者也。是故夕寐宵興,援獎忠烈,潛搆崎嶇,險過履虎。


(宋書1-45_言語)




はい、という訳で詔勅上表類と泣きながら戦ってきます。やり方としては詩経での字句解釈に近づけたほうがいいかなと思ったので(というか訓読するだけの精神的余裕がない)、詩と同じ表示形式で行ってきます。



寒浞

この人の簒奪ルートを紹介するのが地味にめんどい。はじめ后羿こうげいと言う人物の配下だったのだが、その人が相王に対して反乱を起こし、王朝を乗っ取った。そして寒浞が后羿を殺し、相王を殺して、簒奪。そして后羿の妻であった玄妻げんさいとの間にえいをもうけた、とのことである。そして最後には夏の中興の祖として讃えられる少康しょうこうに殺される、と。つーか豷が登場する意味がなさすぎてすごい。まぁ漢の方で王莽と董卓を登場させたいがための人数合わせなんでしょうね。


「大東」「摽梅」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054918856069/episodes/1177354054922087368

こちらで解説してます。初めてこの辺に取り組んだ時(2005年らしい)、「杼軸の悲」(糸車に回す糸すらなくなるほどの困窮)はわかるんだけど「傾筐の塈」が何言ってんだかとんとわかんねえ、って思いまして。それで、いつか詩経に突っ込んでかないとまずいな、って思ったのですよね。ちなみに「適齢期の女性がめとるべき相手がみな戦死してしまったことを悲しむ」みたいな意味になるそーです。わかるかそんなん。唐の時代辺りまでの詩経解釈を取りまとめた「毛詩正義」にも、これを悲劇の象徴として取り扱う用法は登場してきません。別口のなにかがありそうなんですが、ニントモカントモ。

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