劉裕21 檄文      

桓玄かんげん打倒のために集った人々は、

劉裕りゅうゆうを盟主として推戴した。


劉裕は京口けいこうで檄文を発表。

ちなみに檄文の作者は何無忌かむきだ。


檄文にはこうある。


「桓玄簒奪より年をまたいでみれば、

 飢饉や日照りのうち続くこと久しく、

 民からは生気が失われている。


 しかも貴賤の別なく、人々は

 桓玄のなす大規模建築に伴った

 資材運搬、建築工事により、

 大いに疲弊するありさま。


 父と子は引き裂かれ、

 家族は離散させられている。


 こんな悲劇は、詩経しきょうに載る、

 大東だいとうにおける杼軸じょじくの悲、

 摽梅ひょうばいにおける傾筐けいきょう

 果たしてこれら程度で

 済むものだろうか?


 天の運行を仰ぎ見、

 地の人事を俯き見れば、

 こんな事態が長く続くようであれば、

 誰もが死に絶えてしまおう」




眾推高祖為盟主,移檄京邑,曰:自玄纂逆,于今歷年,亢旱彌時,民無生氣。加以士庶疲於轉輸,文武困於造築,父子乖離,室家分散,豈唯大東有杼軸之悲,摽梅有傾筐之塈而已哉。仰觀天文,俯察人事,此而能久,孰有可亡。


眾は高祖を推して盟主と為し、京邑に檄を移え、曰く:「玄の纂逆より、今に于るに年を歷り、亢旱は彌時じく、民に生氣無し。加えて以て士庶は轉輸に疲れ、文武は造築に困り、父子は乖離し、室家は分散せるに、豈に唯だ大東に有る杼軸の悲、摽梅に有る傾筐の塈たるのみならんか。天文を仰ぎ觀、人事を俯して察さば、此れの能く久しからば、孰れか亡ぶべかる有り」と。


(宋書1-21_文学)




檄文本体はこれの十倍くらい

あるけど、まぁ。


さて、ここには詩経の編名が出てくる。


「杼軸の悲」は、収奪が打ち続くことで

布を織り上げるための糸も確保できず、

織り機に糸がセットできないでいることを

悲しんだものである、という。

https://blogs.yahoo.co.jp/raccoon21jp/40677512.html

なので、これは文脈通り。


厄介なのはもう一つ「傾筐の塈」。

引用元である摽有梅という編は、

(※檄文上では押韻とか平仄の関係で

 編名がいじられている)

女の子が意中の男の子に梅を投げて、

その男の子が梅を投げ返してくれたら

カップル成立、けど歌い手は

全然投げ返してもらえない、焦る、

みたいな内容である。

https://blogs.yahoo.co.jp/raccoon21jp/40962987.html


なんでこれが悲劇の代名詞になるん?

さっぱり分からない。


なのでいろいろ調べてみたところ、

どうも晋末宋初あたりの詩経は

「ノストラダムスの大予言」並の

超解釈が進行していたようなのだ。

美刺説、と言うらしいんだけど。


この辺りの概要については

「毛詩正義」が伝えているそうだが、

まだ、該当本には当たれていない。


そこを踏まえれば

「梅の実」が青年男子の隠喩で、

かごが傾き、全てちてしまう」

から悲劇、ということになるのかねえ。


中国史には四書五経の把握が必要だけど、

その四書五経がどう当時に

解釈されていたか、も、

また追っていかなきゃいけない

テーマのようだ。

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