劉裕22 人相見の言葉  

三月のある朝、劉裕りゅうゆう軍は

吳甫之ごほし江乘こうへいにて遭遇。

呉甫之は桓玄かんげんの驍將であり、

その兵力もまた盛んであった。

劉裕は自ら長刀を取り、雄叫びを上げ突撃。

敵軍はみなひるみ上がり、

呉甫之も捕らえ、斬った。


そこから進み、羅落橋ららくきょうに至ると、

桓玄かんげんの部将、皇甫敷こうほふ

クーデター軍を迎撃に出る。


劉裕りゅうゆう軍と檀憑之だんひょうし軍が協力して

皇甫敷と対峙したが、

あろうことか、この戦いで

檀憑之が討ち取られてしまう!


総崩れになる檀憑之軍。

劉裕は敗残兵を取りまとめたうえ、

むしろ檀憑之の仇だ、と戦意を高め、

遂には皇甫敷を討ち取った。



さて、クーデターを

密かに計画していた頃に話が戻る。


劉裕、何無忌かむきや檀憑之とともに

計画がてら、少し町を歩いていた。


そこで一人の人相見に会う。

人相見は言う。


「劉裕殿と何無忌殿は、

 なべて富貴となりましょう。

 それも、ごく近いうちに」


だがその人相見、

檀憑之については黙り込んでしまった。


劉裕と何無忌は、密かにつぶやきあう。


「俺らは既に同じ船に乗っている。

 もはや運命共同体のようなものだ。

 ならば、全員が

 富貴になるはずではないか?

 檀憑之ひとりが例外になるなど、

 あり得るはずがない」


なのでその時には、

人相見の言葉を軽んじていた。



が、檀憑之の死を目の当たりにすれば、

人相見の言葉にも辻褄が合ってくる。


なるほど、やつの言葉は

そう言う事だったのか。


劉裕、クーデターの成功を

確信するのだった。




三月戊午朔,遇吳甫之於江乘。甫之,玄驍將也,其兵甚銳。高祖躬執長刀,大呼以衝之,眾皆披靡,即斬甫之。進至羅落橋,皇甫敷率數千人逆戰。寧遠將軍檀憑之與高祖各御一隊,憑之戰敗見殺,其眾退散。高祖進戰彌厲,前後奮擊,應時摧破,即斬敷首。初高祖與何無忌等共建大謀,有善相者相高祖及無忌等並當大貴,其應甚近,惟云憑之無相。高祖與無忌密相謂曰:「吾等既為同舟,理無偏異。吾徒咸皆富貴,則檀不應獨殊。」深不解相者之言。至是而憑之戰死,高祖知其事必捷。


三月戊午の朔、吳甫之と江乘にて遇う。甫之は玄が驍將なれば、其の兵も甚だ銳し。高祖の躬ら長刀を執り、大呼し以て之に衝るに、眾は皆な披靡し、即ち甫之を斬る。進みて羅落橋に至らば、皇甫敷は數千人を率い逆戰す。寧遠將軍の檀憑之と高祖は各おの一隊を御し、憑之の戰に敗れ殺さるるに見え、其の眾は退散す。高祖は進みて戰いたること彌よ厲、前後は奮擊し、應に時にして摧破し、即ち敷が首を斬る。初にして、高祖と何無忌らの共に大謀を建つるに、相ぜるを善くせる者有り、高祖及び無忌らを相ずるらく「並べて當に大いに貴せん、其れ應に甚だ近し」と、惟だ憑之に相無しと云う。高祖と無忌は密かに相い謂いて曰く:「吾ら既に同舟と為り、理に偏異無し。吾が咸な皆な富貴と徒りたるに、則ち檀獨り應に殊ならず」と。深きには相者の言を解さず。是れに至りて憑之の戰死せるに、高祖は其の事の必捷を知る。


(宋書1-22_術解)




皇甫敷

桓玄の配下将。劉裕と戦い、檀憑之を殺したが、劉裕に殺された。

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