◎崔浩コラム③ 詩句引用①

ごきげんよう、崔浩である。

当作のテーマを再確認いたそう。

「詩経を作中で引用できると

 クソオタクっぽくていいよね!」

である。


ではそれらは実際に、

どのように引用されておるのか。

すでに作中に挙がった例にて、

紹介をさせていただこう。


引用は、雑に言うと二種類。

詩の題を語ることで引用の代わりにする、

詩の本文そのものを引用する、である。


ここでは前者、詩題による提示を

実際に見てまいろう。



士庶疲於轉輸,文武困於造築,

父子乖離,室家分散,豈唯

大東有杼軸之悲,

摽梅有傾筐之塈

而已哉。

 誰も彼もが苦役に駆り出され、

 親子、家族は引き裂かれる。

 こんな悲しき有様が、

「大東」にある杼軸の悲、

「摽梅」にある傾筐の塈、

 以外の場所に、

 あり得てよいのだろうか?

(宋書巻一 武帝本紀上)


家族がむつみ合えぬ悲しみを、

「大東」が歌う杼軸之悲、

「摽有梅」が歌う傾筐之塈に例える。


詩の中にある表現が、

いま訴えたい状況に即しており、

なればこの苦境を打破すべき振る舞いは、

古来より正当化されているのだ、

と主張しておるわけである。


……の、だが、ここで異説をぶちこもう。


豈惟

大東有杼軸之悲,

摽梅有頃筐之怨

而已哉!

(南史巻一 武帝本紀)


ここで引用した「南史」は、

南北朝時代における南朝四国、

すなわち宋斉梁陳の歴史を、

一つにまとめたダイジェスト版である。

つまり宋書の再編集版なのである。

その南史にて、先程掲出した引用に

改変が加えられている。


ここは史書記述の

妥当性を問う場ではない。

なので、ざっくり申し上げよう。

「宋書」の記述を、

「南史」の記述者がおかしく思った。

そう、判断できるわけである。


では、改変された箇所を見てみよう。


 宋書:傾筐之「塈」

 南史:頃筐之「怨」


ここに、引用元の詩句を提示する。


 摽有梅 頃筐塈之


なるほど、宋書は

とことん引用元の表現にこだわりつつ、

かつ、その句形には改変を加えておる。

しかもご丁寧に、

「悲」「塈」で韻まで踏んでおる。

にもかかわらず南史は、引用元の表現を、

わりとガッツリシカトしておる。


つまり、南史著者の観点に基づかば

宋書表現をシカトせねばならぬくらい、

もとの表現がクソであった、

と見なすしかなかろう。


「塈」字の意味合いは

「塗る」「取り上げる」「休息する」

である。それを南史は却下し、

「恨めしく思う」字を充てる。


ここで「頃筐」を見てみよう。

意味合いとしては、木になっていた梅が

地面に落ちたため、「かごを傾け」

拾わんとした、となる。

「みずみずしく実っていたものが今や

 活力を失い、落ちてしまった」

訳である。


これを、女性の結婚適齢期にかける。

つまり「頃筐」とは、

婚期を逃した女性を指す。


宋書の引用に基づけば、

適齢期を逃した女性を

「休ませる」「拾い上げる」ことが、

家族のむつみ合えぬ悲劇につながる。

うむ、確かにさっぱり意味がわからぬ。


では、ここを「怨」に変えるとどうなるか。

夫を、恋人を奪われ、女の盛りを

配偶者無しで過ごさねばならぬ。

つまり、子供も作れない。

そうして出産適齢期を過ぎる……

それは恨みたくもなろう。



ただし前述のとおり、

宋書における記述は

きっちり形式を整えてきておる。

つまり何がしかの意図は

込められているはず、と推測しうる。


それが一体何なのかを、

どうあぶり出すか。

その手がかりは今のところ

見いだせておらぬので、

好き勝手に妄想するぜヒャッハー!


……と言うのが、現状の作者の

立ち位置である。クソかよ。



ともあれ、このような遊びが

できるわけである。


何がしかの書物にて本文を読み、

詩経に載る解釈を踏まえる。

前コラムにて語ったとおり、

「公的な文章」であれば、

儒家センセーの説を取るのが良い。


ただし明代以降の作品で

出くわしたときには、儒家センセー説を

忘れるほうが良さそうである。


このあたりはさじ加減、

という感じとなるのかな。

まぁ、面倒くさい。面倒くさいのだ。


それが楽しいという

アレな方向けの遊びであることは否めぬな。


次回コラムでは、

詩の本文の引用、について語ろう。

言うまでもなく、より面倒くさい。

クソかよ。



では、また次回。

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