鄘風(ようふう)

柏舟(先立たれた夫へ立てた操/不義批判)

伯舟はくしゅう 引用3件

寡婦 夫への思い 再婚拒否 衛 不義批判



汎彼柏舟はんかはくしゅう 在彼中河ざいかちゅうが

髧彼兩髦たんかりょうぼう 實維我儀じついがぎ

之死矢靡它しししびた

母也天只ぼやてんし 不諒人只ふりょうじんし

 漂い浮かぶ柏の船が、

 黄河のただなかにある。

 垂れ髪のあの人をこそ、

 我が夫に、と見定めたのだ。

 あの人が死んだところで、

 ほかの人の元に行くつもりはない。

 あぁ、お母様、あなたは私の天。

 けれども、どうしてわが心を

 肯んじてくださらぬのか。

 

汎彼柏舟 在彼河側ざいかかそく

髧彼兩髦 實維我特じついがとく

之死矢靡慝しししびとく

母也天只 不諒人只

 漂い浮かぶ柏の船が、

 黄河の岸に結ばれている。

 垂れ髪のあの人こそが、

 ただ一人の私の連れ合い。

 あの人が死んだところで、

 ほかの人に想いを逸らせるつもりはない。

 あぁ、お母様、あなたは私の天。

 けれども、どうしてわが心を

 肯んじてくださらぬのか。



○国風 鄘風 柏舟

ここで描かれるのは「夫に先立たれた妻はやがて再婚先にあてがわれる」というもの。結婚とは家と家との関係調整的に機能する。そして配偶者がいなくなれば、その者と嫁ぎ先との関係は断たれるわけである。ならば別の家との関係調整に用いられるのが理屈となろう。いやはや、現代的感覚から言えば、実に人権無視も甚だしいな。人権という言葉を持ち出すだけ無意味なのだがな。とは言え、「意思持てる一個人」にしてみれば、やはり連れ添った者との関係が確かな絆となっておるわけである。「家のための道具」に、それでも確かな意思があるのだ、と伝えてくれるかのようであるな。

なお柏は「堅固な木」であるという。それをもって妻の貞淑なるの堅固さを描写しておるのだ、とされている。それにしては邶風の同題詩の主人公がずいぶんとアレであったわけであるが……。



○儒家センセー のたまわく

「共姜自誓也。衛世子共伯蚤死,其妻守義,父母欲奪而嫁之,誓而弗許,故作是詩以絶之。」

鄘と邶は、衛国の中の一属国である!つまり洛陽から見れば北東にあたる地域である! そして衛国、争乱、政変の末滅び去った国を歌う詩であるならば、この詩もやはり衛公らの無道に絡む詩である、とみなすべきであろう! ただしこの詩は邶風に出てきた荘公の二代前のことである! 二代前、共伯は即位後すぐ死去した! 残された共伯の妻、姜氏を、その両親が衛より引き上げさせ、別の家にあてがおうとしたのである! 姓からすれば姜氏もまた斉より嫁いできたのであろう! 斉といえば大国であるから、縁戚を結んでおかねばならぬ家門も多かろうしな! しかし姜氏は夫との絆を選んだ! 貞淑なる妻、かくあるべきであるな!



■詩経のご当地ソング

漢書28 地理志下

庸曰「送我淇上」,「在彼中河」


河内郡に載せられる詩経のご当地ソング集に載せられておる例のアレである。河内郡から見る黄河はさぞ雄渾なのであろうな。



■兄、曹丕への歎き。

三國志19 曹植

今之否隔,友於同憂,而臣獨倡言者,竊不願於聖世使有不蒙施之物。有不蒙施之物,必有慘毒之懷,故柏舟有『天只』之怨,穀風有『棄予』之嘆。


どうしてこんなに僕を冷遇するんだい兄者、悲しいよ兄者、これじゃぼくの想いは当詩で言う「ああ、あなたは確かに私の天だけれど」とか、小雅谷風に言う「私を捨てたのか」とか、そう言う思いを抱かずにはおれないよ、と訴えておるのである。



■世説新語 假譎10を思い出す

いや、該当条で引用されてはおらぬのだがな。名門諸葛氏の娘が、当時の一流氏族、庾氏のもとに嫁に入るも、夫が早々と死亡。それからしばらく諸葛氏は再婚を嫌がったが、最終的には父親の計略で再婚をする、というものである。

ここで諸葛嬢は再婚しませんという意志を「不復重出!」と表明するのだが、あえて上掲詩句を改変し「父也天只、不諒人只!」と詰ってくれたら最高であるな。そんなことを考えた次第である。



毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%89#%E3%80%8A%E6%9F%8F%E8%88%9F%E3%80%8B

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