牆有茨(浮気現場を語る/「蒸」批判)
エロス 秘め事 衛 レヴィレト
生け垣につたうイバラ。
払うわけにもいかないものだ。
ベッドシーンでの睦言?
いやいや、語ってもいいですけど、
みっともなくて、とてもとても。
牆有茨
中冓之言
所可詳也
生け垣につたうイバラ。
取り除くにもいかないものだ。
ベッドシーンでの睦言の詳細?
いやいや、語ってもいいですけど、
……長くなりますよ?
牆有茨
中冓之言
所可讀也
生け垣につたうイバラ。
取り除くにもいかないものだ。
ベッドシーンでの睦言の文字起こし?
なにゆってんですか、
羞恥プレイですか?
○国風 鄘風 牆有茨
垣根に生えたイバラを取り除かんとすれば、イバラがほかの植物に食いついているから、生け垣そのものをも破壊してしまいかねぬ。放っておくと厄介なことになるとわかっておりながら、あえて放置せねばならぬ。その前段を受け、後段では「なんか寝室でヒワイなことやってるよー? 聞く? 聞いちゃう? うーんでもなー?」と言ってくるわけである。いや歌唱者お前はお前で害悪だよという気もせぬではないが、ともあれベッドルームで行われていることが「後々厄介になる」と語っておるわけである。
○儒家センセー のたまわく
「衛人刺其上也。公子頑通乎君母,國人疾之,而不可道也。」
ここに歌われておるのは衛の宣公が亡くなった時、後を継いだ恵公の庶出の兄が恵公の母、姜氏とおセッセセし五人の子を設けてしまったことを批判しておる! このことは厳に非難されてしかるべきであるが、とは言えことを表ざたにしてしまえば、恵公と姜氏との母子の道も損なわれることとなる! ゆえに外聞ははばかられるのである!
■皇帝が他人の睦言に耳そばだてんな
漢書47 梁王劉損 子孫劉立
帝王之意,不窺人閨門之私,聽聞中冓之言。
漢の文帝の末子、劉揖。夭折したため兄の劉武が梁王の後任となり、以後劉買→劉襄→劉無傷→劉定国→劉遂→劉嘉→劉立と継承された。その劉立が人妻である叔母に惚れてオセッセセを為した。別件の取り調べからそのことが明るみとなり、犬畜生にも劣ると言うことで処刑を求刑されたのだが、谷永がそれを止める。「いや皇帝がいちいち他人の下半身事情をあーこう言うなや」とのことである。つまり谷永は、完璧に当詩をイメージした上でこの言葉を引いておるわけである。結局劉立は処刑されずに済んだのだが、普段からだいぶやんちゃであった劉立はその後もやんちゃ(穏当な表現)を繰り返したため、最終的に僻地に飛ばされることとなり、それを嫌がり自殺した。
○作者 北魏を思う
「蒸」字を見るとブチ切れる崔浩先生に代わり、作者が失礼します。毛詩正義はこの詩を「蒸」という行為への批判と解説しています。要は母と義理の子とのおセッセセを「蒸」とするわけですね。ところで「蒸」は、春秋時代においてしばしば見受けられる現象なのだそうです。そしてしばしば批判されている、と。
いきなりで恐縮ですが、遊牧民族にはレヴィレート婚という制度があります。夫を亡くした妻が、同じ氏族の別の男の妻にスライドされる、というものです。
あらゆる古代風習は「その方が合理的だから」できあがるものであり、そこに貴賤を語る意味はないでしょう――が、残念ながらこの風習が中原国家の価値観に思いっきりバッティングしました。「問題外の蛮習」ぐらいのレベルです。
このあたり、春秋の時代の人々がこうした風習と身近であり、「ゆえにこそ排除のアジテートを繰り返す必要があった」のではないか、とも感じてしまいます。それが「蒸」批判の頻出につながったのではないかな、という気がしてなりません。
一方で、崔浩先生が仕えた国、北魏。史書ではさも中原国家ですよくらいのツラをしていますが、崔浩先生現役時代はまだまだ皇帝=拓跋氏のルーツである北方騎馬民族ならではの風習を多くその生活に残していたようです。上記レヴィレート婚は普通に皇帝周りでもやられていましたし。
で、崔浩先生。かれは「国史事件」という事件で誅殺されることになるのですが、その理由を単純に言うと「北魏の歴史書に残すべき内容で主君を激怒させた」ため。たぶん「こんな野蛮な行為してねーでとっとと偉大なる漢族の風習に馴染めやボケ(意訳)」くらいのこと書いてましたよ、あのひと……。
まぁともあれ、北魏で崔浩先生がブチ切れていた(それで逆に皇帝をブチ切れさせた)ような事案が、春秋時代にもいっぱい発生してたよねきっと、いやー周って偉大なる儒家センセーがたのルーツなんだなー(生ぬるい笑顔)、というお話なのでした。
崔浩先生周りのお話は、河東竹緒さんの作品でもうちょっと細かいお話が読めます。
マジメに調べずテキトーに語る南北朝時代北魏末の人々。
前史①史官の紆余曲折
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888552296/episodes/1177354054921022554
毛詩正義
https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%89#%E3%80%8A%E7%89%86%E6%9C%89%E8%8C%A8%E3%80%8B
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