君子偕老(死んだ夫を見送る/衛国の乱倫を批判)

君子偕老くんしかいろう 引用10件

妻→夫 夫婦 ともに老いる 不幸 衛 乱倫批判



君子偕老くんしかいろう 副笄六珈ふくぜいろっか

委委佗佗いいだだ 如山如河じょさんじょが 象服是宜しょうふくぜぎ

子之不淑ししふしゅく 云如之何うんじょしか

 あなたと共に老いてゆきたい、

 そう思いながらかんざしを髪に通す。

 かんざしについた六つの玉が揺れる。

 豊かであり、貞淑である。

 山のごとく、川のごとく、

 堂々たるあなたは、

 お召し物もまた素晴らしい。

 そのようなあなたに、

 なぜ不幸が襲い掛かるのか。


玼兮玼兮しけいしけい 其之翟也きしてきや

鬒髮如云びんぱつじょうん 不屑髢也ふしょうてきや

玉之瑱也ぎょくしてんや 象之揥也しょうしていや 揚且之皙也ようしょしせきや

胡然而天也こぜんしてんや 胡然而帝也こぜんしていや

 きらびやか、とてもきらびやかな、

 キジの柄の入ったお召し物。

 その黒髪は雲のごとく豊か。

 あえて付け髪などする必要もなく。

 玉の耳飾り、象牙のヘアピン。

 額のラインのすっきりとした、

 いかにも明晰であるお顔立ち。

 何とも天のなした奇跡、

 天帝の降臨かのような神々しさ。


瑳兮瑳兮さけいさけい 其之展也きしてんや

蒙彼縐絺もうかてんち 是紲袢也ぜせいばんや

子之清揚ししせいよう 揚且之顏也ようしょしがんや

展如之人兮てんじょしじんけい 邦之媛也ほうしえんや

 輝かしく、とても輝かしく、

 赤い薄絹の衣をまとい、

 その上からは白い衣をまとい、

 ふわりとした装いをなされる。

 目元は涼しく、額のラインは

 顔立ちをすっきりと見せる。

 まこと、かくのごときお人こそ、

 お国第一の麗人でありましょうに。



○国風 鄘風 君子偕老

第一連でオチをもってきて、あとは後ろ髪引かれるかのような、既に「去ってしまった人」への思慕を歌うわけであるな。こうして読んでみると、まるできらびやかに装われた若くして死んでしまった妻の遺骸をじっと眺めている夫の姿を思い浮かべるかのようである。落ちをあらかじめ言われたおかげで、この三連のあとには丸投げにされた空虚さがぽっかりと残るかのようにも感ぜられる。



○儒家センセー のたまわく

「刺衛夫人也。夫人淫亂,失事君子之道,故陳人君之德,服飾之盛,宜與君子偕老也。」

この詩もまた衛の乱倫を非難しておる詩である! 夫婦は共に老いてゆくべきであるに、衛国ではそのならいを破る君主ばかりが現れておる! 中でも荘公の妻、姜氏は美しくも、共に老いるべき夫に裏切られ通しであった! その悲しみを悼んだ詩、とも言えるであろう!



■ともに老いたい「のに」

偕老はすでに擊鼓でも見た句であるが、やはりタイトルにも載る詩においたほうがわかりよかろう。なおこの句はほかにも衛風氓、鄭風女曰鷄鳴にも現れる。だいたいはともに老いたい「のに」にウェートが置かれるわけであるが、このあたり孫権はだいぶ無邪気なのが伺える。


・漢書100.1 敍傳上

若胤彭而偕老兮,訴來哲以通情。

・後漢書52 崔駰

及爾偕老,老使我怨。

・三國志47 孫権

是以眷眷,勤求俊傑,將與戮力,共定海內,苟在同心,與之偕老。



■苻堅サマ、慕容垂に語る。

晋書123 慕容垂

卿既不容於本朝,匹馬而投命,朕則寵卿以將位,禮卿以上賓,任同舊臣,爵齊勳輔,歃血斷金,披心相付。謂卿食椹懷音,保之偕老。


慕容垂は、淝水の戦いにて大敗した苻堅を長安まで護衛した。義理を果たしたと認識したか、その後独立。慕容垂は苻堅に「お前が西の王になれ、俺が東の王になる。仲良くやって行こうぜ」と手紙を送っている。それに対する苻堅サマの返答の一部である。「うちでハブられてたお前さんを高く取り立ててやっただろ、一緒に年老いてこうぜ、そう誓い合ったじゃねえかよ!」なのになんで裏切ったりしやがるんだよう、恨むぞこら、と仰っておる。おそらく慕容垂もドン引きだったのではないだろうか。



■劉誕、兄貴に泣いてすがる

宋書79 文五王 劉誕伝

魏書97 劉裕 劉駿

臣一遇之感,此何以忘,庶希偕老,永相娛慰。


劉誕は劉宋文帝の第六男。文帝が皇太子の劉劭に殺されるという事件が起こった後、兄の孝武帝と共に決起、劉劭を討った。が、その後謀叛の疑いをかけられる。その時に劉誕が提出した手紙である。「兄上にはいくら感謝してもし足りないんです、一緒に老いて行こう、そう約束したではございませんか。だのにどうして小者どもの讒言を信じ込み、私を殺そうとするのですか!」と哀願するのである。しかし嫌疑は晴れず、最終的には反乱を起こし、鎮圧され、処刑された。



■飾り立てる

後漢書120 輿服下

一爵九華,熊、虎、赤羆、天鹿、辟邪、南山豐大特六獸,詩所謂「副笄六珈」者。


後漢書に規定される皇后の服装の一節であるが、かんざしに飾られた六つの飾り、と書かれ、それが何故ここに載る六つになるのか。せめて大雅の句を持ってきてほしいものだが。良くて士大夫層の礼であって皇后クラスの礼ではないように思えて仕方がない。



■皇帝が皇后を迎え入れる

晋書21礼下

宋書14礼一

咨某官某姓之女,有母儀之德,窈窕之姿,如山如河,宜奉宗廟,永承天祚。


東晋の穆帝が皇后の何氏を迎え入れる際の式辞において、穆帝より何氏に呼びかけるべき、とされた一節である。某官某姓之女の箇所には「金紫光祿大夫何準之女」と入る。いま調べてみたら何氏の立后と何準の追贈(既に亡くなっていた)が同年であったため、立后に当たっての追贈を為した、とするのが自然であろう。関雎から当詩に繋ぐのは、ある意味で「この詩のように離ればなれになってほしくない」という思いがあるのやも知れぬ。



■晋書124 評

驪戎之態,取悅於匡牀;玄妻之姿,見奇於鬒髮。


いわゆる後燕載記のまとめである。慕容垂よりはじまった後燕が慕容雲=高雲に簒奪を受けるにあたり、慕容熙による苻訓英への入れ上げを批判する意味合いで用いられる。「おいおい苻氏、えっちな髪してやがんぜ」みたいな感じである。楽しそうだなおい。



毛詩正義

https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%AF%9B%E8%A9%A9%E6%AD%A3%E7%BE%A9/%E5%8D%B7%E4%B8%89#%E3%80%8A%E5%90%9B%E5%AD%90%E5%81%95%E8%80%81%E3%80%8B

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