短編29‐4話  数あるカクヨムな留学生がちゃかしやがってっ

帝王Tsuyamasama

短編29‐4話  数あるカクヨムな留学生がちゃかしやがってっ

「いけー! バーグさん、とどめをさしてやれー!」

 今日も中庭の中心にある藤棚の下に設置された机の上で、バックギャモンが行われており、実に平和な日である。天気もいいし。

「はい! カタリなんてちりも残しません!」

「それはやりすぎだっ」

 左手は超握りこぶし。右手の人差し指をピィーンと伸ばしてるこいつは余桝よます 眞雛まひな。髪は肩を越すなかなかの長さだが、いつもポニーテール。

 身長は女子の中ではそこそこ高い方。陸上部所属。10000mやってるって聞いた。

 元気っ子というか男勝りというか、いやまぁ女らしさを感じないまではさすがにないが、まるで男子と遊んでるかのように、ノリよく毎日元気いっぱい幼なじみライフを眞雛と過ごしている。

 もちろんポニーテールもぴょこぴょこ左右に振られて元気。

 こちらから見てその眞雛の左隣に座っているのはリンドバーグ。二人やってきた留学生のうちの一人で、バーグさんと呼ばれることが多い女子。

 銀色の髪でショートヘアー。目ははしばみ色。身長も眞雛と同じくらい、つまり平均より高めということもあって、留学早々学生たちから人気を集めている。

 本人はお手伝いAIと自称しているが、まぁ、その、なんだ……あめとむちの使い方がへたっぴぃというかなんというか。

 そんなバーグさんの右手に握られた赤いダイスカップサイコロを混ぜる筒から飛び出たふたつの赤いダイスサイコロの目は……

「やりました! 6ゾロダブレットです!」

「よっしゃあーーー!! 一気に勝利のベアリングオォーフッ!ゴール

「げーっ! ひでぇよバーグさぁ~ん!」

「ウゥワッ、ウゥワッ、ウゥワッ…………」

 俺、加作かさく 雪次ゆきじの右隣でガーンショック顔を披露してくれているのはもう一人の留学生、カタリィ・ノヴェルだ。こちらはカタリと呼ばれることが多い男子。

 赤茶色の髪でこちらも髪は短いが、ちょっとくせっ毛がある模様。目は水色をしているが、全体的に小柄で腕も男子にしては細めな方。

 学校指定セカバンに世界地図を入れてるくせにその地図が読めないという……もっとこう、普通の留学生はいなかったのだろうか?

 ……俺の部活? 園芸部だけど?

「乙女のタッグの前じゃ、雪次なんてまるで相手にならないわね!」

「ぐぬぬぬ!」

「ただでさえカタリは地図も読めない方向音痴なのに、たった24マスしかないギャモンボードの中すら満足に前進できないなんて……まあサイコロの目を読めただけでも前進した、といったところでしょうか」

「ばっ、バァーグさあぁー……んっ!!」

 本日の中庭バックギャモン。俺たち学生服男子タッグは、セーラー服女子タッグにけちょんけちょんにされた。ちきしょぉっ!


 女子タッグはうきうきで、男子タッグはしくしくでギャモンセットを片づけ始める。これはもともと津山つやまの持ち物だ。あいついくつもギャモンボード持ってるからな。

 すべすべな赤と白のチェッカー、同じく赤と白が交互に並ぶ三角形のポイント駒を置く場所24ヶ所、これまた赤と白のダイスがふたつずつ、と、今回は使わなかったダブリングキューブ倍数表示サイコロ、フェルトっていうのか? 程よく握りやすい赤と白のダイスカップ、ビリヤードみたいな緑色の生地、そして外側は黒い、一見するとサラリーマンの人が持ってそうなカバンみたいなケース。金色の筆記体ででかでかとBackGammonと書かれている。

「それにしてもお二人はとても仲がいいみたいですね~」

 俺と眞雛はとっさに見合った。

「雪次とは幼稚園からの仲だからねー。小学校も遊んで中学生になった今でもこんな調子っ。これはもう高校でも大学でも遊び続けるね~。雪次明日遊ぼっか」

 そんなやれやれって表情でさらっと明日の土曜日遊びに誘うな。

「部活は?」

「午前だけ! 帰ってから雪次ん行っていい?」

「ああ。昼ごはんはうちで一緒に食べるか? ラーメンだけど」

「うんうん! その後いっぱい遊ぼ!」

 気の合う幼なじみってのは、いいもんだな。

「んじゃ二人は結婚しても遊ぶんだな」

(ドガシャッ!)

 せっかく集めた駒ぶちまけてもーたやないか!!

「ちょ! かっ、カタリぃ! あんたいきなり何言い出すのよ!」

「そうだぞカタリ! 俺にも結婚相手を選ぶ権利くらいあるだろう!」

「こら雪次! あたしじゃ不満ってわけー?!」

「だからなんで眞雛が出てくんだよ!」

「あぁ~KY空気が読めないカタリにはわたくしからきつく言いつけておきますから~」

 ……うん。平和な一日ですね。はい。



 次の日。


「手を合わせましょうぺったんいーたーだーきーまーす!」

「いただきまーす」

 予告通り、眞雛っぽい人が昼の十二時過ぎにやってきた。

 ダイニングテーブルにていつも俺が座っている席でラーメンちゅるちゅるしてる眞雛っぽい人。その右隣に俺。お茶も透明のポットごと完備。

 いやぁそれがですね? 眞雛とは思うものの、その……装備品が……。

 かなり薄いオレンジの長そでカッターシャツみたいなやつ、でもフリフリ付いてる。

 白くて長いスカート。靴下も白。

 下ろされた髪。

 でも声と顔のパーツと身長は眞雛。

(ん~む……)

 歩き方や反応もまぁ眞雛だろう。くまさんキーホルダー付きのその家の鍵も何度も見た。はしもイルカさんデザインのを選んだ。だが、だが……

(その格好はなんだ?!)

 俺は非常に戸惑っていることを自分でもよくわかっていた。なぜならば、こんなにも胸がうるさくわめいているからだ。


 ごちそうさました後、客人は座ってくつろいどれと言って、俺はお片づけをちゃちゃーっと済ませた。眞雛はやっぱりにっこり笑顔眞雛だった。

(なぜかいつもより破壊力があった気がするが)

 台所から出ると、眞雛はお茶持って白色ソファーのところに移動完了していた。背もたれの上に腕を倒して乗せて、手の上に眞雛のお顔。うきうきしているようだが……

(はっ。俺、一体どうした……?)

 さっきから、なんというか、違和感というか、こう、なんだろうか……。

(とりあえず座ろ)

 俺は眞雛の左隣に座ることにした。ぼふっ。

「何して遊ぶー?」

「ちょいきゅーけい」

「よいですなぁ~」

 お茶また飲んでる。眞雛は水とかお茶とかめっちゃ飲む人。てか給食で休んでる人の牛乳もめちゃ飲む人。(←実は俺も)

 背もたれにゆったりしながら伸びをし始めた眞雛。

「んん~っ……!」

(眞雛って……こんなやつだっけ……?)

『女子要素がないわけではない』から『女子要素のかたまり』になっちまってないスか?!

「なぁ眞雛」

「んー?」

 伸び解除。

「その格好……どうした?」

 ついに俺は聞いた。

「お母さんがたまにはスカートで行けって言ったから」

「ふ、ふーん……」

 ……ぇ以上?! そんだけ!?

「ふふっ、雪次はあたしが来る前からいろいろ準備してくれてたもんねー」

 準備っつっても湯がいたり切ったりした程度だったが。そんなロングヘアー眞雛がこっち向いた。

「ありがとー、雪次ー」

 そして笑った。

(こっ……これはっ…………!!)

「こんな感じで、ずっと幼なじみで突っ走っていけたらいいねー」

 同じように笑顔でそんなことを言ってくれたが……

(……なんだろう……いいセリフのはずなのに……)

「ちょっとー雪次さーん? おーい、眠たいのー?」

 手を目の前でふりふりするこの動作も、これまでなんとも思わなかったはずなのに。

「……眞雛っ」

「なにー?」

 また手はソファーへ。眞雛ならそのまま筋トレ始めても違和感ない。

(今までもこうやって相手の目を見てしゃべりましょうを実践してきたはずなのにな……)

「……お、幼なじみで突っ走ってっつってたよな」

「うん。もう人生の半分以上一緒に走ってきたもん。これからも幼なじみ爆走だよー!」

 陸上ってそんな腕大振りして走るもんなんか? 俺よくわかんないけど。

「……そのー。それ。もう、ゴールにしないか?」

「えっ?」

 なんとか眞雛の爆走例えに合わせてみる。

「これまでみたいな突っ走り。なんていうか、俺、眞雛見てたら……今までみたいに突っ走れそうになくなったっていうか……」

 こんな感じの例え方で合ってんだろうか? って、眞雛はみるみる笑顔が消えていっちゃった。

「ど、どうしたの、雪次。冗談だったら、ロケット使ってお先に失礼とか言いそうなのに」

(それ、いただきます)

 今度使お。

「今日の眞雛見てたら、なんか……うん……」

 笑顔が消えたどころか

「そんなっ。ごめん雪次、あたしなにか変なこと言っちゃった? 雪次に迷惑かけちゃうようなことした? あたし、いつまでも雪次と仲良くしたいよ……」

(あれっ!?)

 これはやばいと俺の直感がうなっている!

「うぉあぁっと! あーえとー、俺の言葉足らずだった!」

(えーとえーとえーと……)

「そいやっ!」

「ひゃあっ?!」

 俺はなりふり構わず眞雛を、左腕は脇腹から回すように、右腕は首から背中へ回すように、そのー、めっちゃ抱きしめた。

「ゆ、ゆっ、どしたのっ」

 顔も寄せた。髪触っとこ。さわさわ。

「い、今までみたいなただのはっちゃけてるだけの幼なじみはゴールしてー、えーっとだなー、そのー……」

 あ、ゆっくり眞雛も腕を俺の背中に回してきた。

「……新しく、幼なじみ兼彼女さんを……れ、れでぃーすえぁーんどじぇんとるめーん?」

 …………あれ、外した?

「……ひょっとして、オンOnユアYourマークスMarks?」

「たぶんそれ。セェッ」

「それは知ってるんだ」

「ばーん」

「ばばーん」

「まさかのフライング」

「だってっ」

 眞雛が俺の顔の横からちょこっと離れた。

(うわかわいっ!)

 そんなてれ顔したことねぇだろ?!

「……雪次と一緒に遊べるだけで楽しかったのに、そんなこと突然言っちゃうんだもん。びっくりしちゃうじゃん」

 今さらながら感じる眞雛の腕の柔らかさ。

「じゃあ……棄権?」

「高校入ったら一緒に陸上やる?」

「園芸部も悪くないぞ?」

 ここでさらにもうちょこっと笑う眞雛。

「……雪次と一緒なら楽しいっていうこと、よくわかってるもん」

(っておでこ!)

「雪次がそばにいてくれるんなら、なんでもいいや」

 すっごくかわいい声が聴こえたと思ったら、もう眞雛との顔の距離はなくなっていた。

「…………えへ、よろしくねっ」

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短編29‐4話  数あるカクヨムな留学生がちゃかしやがってっ 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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