結婚はゴールじゃなくて新しい生活のスタート

カユウ

第1話 結婚をゴールって言ったやつ出てこい!

 結婚をゴールインと表現している媒体は数多く存在する。だが、結婚したらそれで終わりなのか、と言えば、そんなわけもない。結婚は、二人の新しい生活の始まりを示すイベント、区切りでしかない。結婚して半年。僕はしみじみとそう思っている。


「真治さん、洗濯物はカゴに入れてくださいね。もう何度も言ってますけど」


「あー、はいはい」


 休日の昼前。聞こえてきた恵里佳の声に、目線をテレビに向けたまま条件反射的に返事をする。最近発売されたばかりのモンスターをハントするゲームで、大型モンスターを狩っている最中なのだ。他の人と一緒にやっているから、中断することはできない。なんとなく、恵里佳の声に棘があったような気もするけど、あれ以上何も言ってこないから気のせいかな。


「恵里佳、こんなにたくさん作らなくていいよ。食べられるけどさ」


「あら、ごめんなさいね」


 その日の夜、テーブルの上に並んだ料理の量を見て、つい口から言葉が出てしまう。結婚して、恵里佳の手料理を毎日食べられるのはうれしい。だけど、主菜と副菜が同じくらいあって、さらにサラダや味噌汁、箸休めの漬物まであるなんて、いくら何でも作りすぎだと思う。ファミレスみたいに量を変更できるお店のとき、僕が大盛りばかりを頼んでいたのが忘れられない、と言われたことはある。あと、二人姉妹だったし唯一の男性である義父もあまり量を食べない人だと言われていて、同世代の男性にどれくらいの量を提供したらいいかわからない、とも言われた。だが、結婚当初と比べ、作ってくれる量が増えている気がする。作ってもらったので、残さないようがんばるのがよくないんだろうか。そう思いながら、僕は今日も箸を進める。

 食べすぎてふくらんだお腹をさすりながら、ソファの背もたれに体を預ける。腹いっぱいすぎて動けないので、食後の食器洗いは恵里佳にお願いした。テレビのニュースでは、有名人の熱愛報道が流れている。


「ゴールイン、ね」


 テレビに表示された文言を読み上げる。しかし、実際に結婚してみて思う。結婚はゴールじゃない。スタートだ。

 それぞれ違う家庭で生まれ、生活してきた二人が一緒に住む。それぞれの家庭には、それぞれのルールがあって、さしたる疑問を抱かずに生きてきた。

 物語だったら、結婚して幸せな家庭を築きました、で終われるだろうが、ここは現実。異なる家庭で生きてきた二人が一緒に住むんだ。異文化と言ってもいいくらいルールが違う。異文化をすり合わせて、二人のルールを作っていくきっかけが結婚。結婚して半年がたった僕の感覚だ。


「真治さん、テーブルの上ふいてくれた?」


「あ、忘れてた」


「もう、食べ終わって食器を下げたら拭く。基本でしょ?」


 洗い物を終え、ダイニングに戻ってきた恵里佳は、僕の返答を聞いてウェットティッシュでテーブルの上を拭いていく。僕は、ウェットティッシュをほぼ使わない家で生きてきた。え、じゃあテーブル拭くときはどうしていたのかって?布製の台拭きを使ってたのさ。だから、拭いたら捨てられるウェットティッシュが便利すぎて。ついつい、あちこちにウェットティッシュの箱を置きたくなるので、ドラックストアなどで買おうとして恵里佳にいらないとバッサリ切り捨てられてしまうのだが。

 大きいこと、小さいこと関係なく。お互いのルールをすり合わせていく必要がある。生活のルールを変えるのは、地味に労力がかかる。二人で相談しても、自分の中では前のほうがよかったと思い続けてしまうこともある。結婚前にイメージしていた以上に、いろいろと考えないといけないことが多い。


「結婚はゴールじゃないよな~」


「え、急にどうしたの?」


「いや、さっきニュースでゴールイン間近か?っていうのがあってね。結婚した身としては、結婚はゴールじゃないなと思ってさ」


「そうね。新しい生活の始まりだから、ゴールはまだって感じね」


「お、いいこと言うね」


 恵里佳の言葉に、顔を見合わせて笑いあう。結婚はゴールじゃない。スタートだ。僕らのゴールはまだまだ先。それまで一緒に生きていこう。

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