ゴールは何処に?
夜野 舞斗
気になるゴール
ふぅ。ベッドの上で横になって、一息ついた。本当、今までよくやったよ。
この三年間、面白いことがめいっぱいあった。部活になんて入ろうと思ってなかったのに演劇部に入れられ、裏方から主役の全てまで経験した。物を運んだり、練習したり。その中にたくさんの挫折や友人との仲違いが存在した。
しかし、今考えるとそれがとんでもなく素敵なものに感じるんだよね。もう触れられない高校時代の大切な記憶。ネガティブなものでさえも、本当に懐かしく思えてしまう。
そんな部活の友人とも大学で離れ離れ。僕は東京で、アイツは北海道の大学。部活の同窓会でもやらなければ、会えなくなる。
もう少し遊びたかったな。もう少し話したかったな。もう少し、高校生のままでいたかったな。
いたかったな、が多い青春。後味は爽快なのに、とても苦い。
明日からはもう大学生としての準備が始まる。大学で巧く生きていけるのか。友人は作れるのか。今までには味わったことのない絶望が待っているのでは。
考えれば、考える程に前へ進むのが怖くなる。ごくりと唾を飲んで、気持ちを落ち着かせようとするも体のあちらこちらが勝手に動いてしまう。
「……怖い……」
ただ時間が経つと共に考えることすら疲れに変わる。元々、卒業式の祭典や友人との最後の会話で心身疲労ばかり。いつの間にか視界は暗転していた。
そんな夢の中、一人で一本の道を歩いている。土の道。辺りはまるで鬱蒼とした森の中。見えない未来の暗示だろうか、と考えられる程に意識ははっきりしていた。
ふと、空から一人の女が降ってきた。夢の中だから別に驚くこともないのだが。
「え、えっと、どちら様です?」
その女は微笑んでみせる。僕の問いには応じず、こう言うだけ。
「もうすぐ、貴方は……ゴール届きます。」
「え?」
その一言。
次の瞬間には目が覚め、朝になっていた。随分と短い夢だった。いや、もしかしたら他の内容は覚えていないだけなのかもしれないが。
ゴールとは、何だ?
僕はベッドの上でいつも聞くようなスズメの
人生のゴールと言うのはおかしい。まだ、僕は高校生。消えるとか、そう意味だとしたらゴールではなく、途中下車、または脱落だと思う。
「何だろう……」
と、思考しようとする前に母からの声。「ご飯ができたわよー!」とのこと。考えるのは朝飯を食べてからでも遅くないだろう。
そんな朝のルーティンをやっているうちに僕はすっかり忘れていた。
ゴールのことを。まぁ、そもそも夢の中で現れた登場人物が言ってたことだ。真に受けることでもないと判断したのだ。
ゴール……そのことを思い返したのは夜のこと。
ふと気になった。高校としてのゴールは昨日の卒業式で終わった。高校生として、だろうか。三月三十一日までは一応、戸籍上は高校生だ。……ううん、と言っても高校生っぽいことはこれ以上ないし。
もう既にゴールしているって感じだ。
考えても分からない。ただ思った。まだできる。まだ友人は同じ地域にいる。まぁ、遊びに行くと言ってもちょっと遠いか。
いや、待て。
ならば、最後に送っておこう。このメッセージ。
『北海道に行っても、頑張れよ、と!』
その返信がすぐに来た。
『お前もな!』
との言葉と共に一つ。優雅な曲調が入った音楽メッセージまで送られてきた。
「……あっ……まさか、あの夢の中で女の人が言ってたの? オルゴールが届きます! か……ゴール届きますって……もっと聞き取りやすく言えよな……」
って、夢に出てきた人に何を愚痴っているのだろう、僕は。
オルゴールの優しい波に心を任せながら、考える。明るい曲調や穏やかな音に影響されたのか、僕の考えがポジティブになったような感じがした。
大丈夫。大学は仕事と言う人生のスタートを更に優雅にしてくれる場所でもあるのだ。
大丈夫。ゴールなんて、そうそうない。あるとしたら、オルゴールかレースのゴール位。
まだまだ僕とアイツの友情も、僕の人生も学生の生活も、高校生としての無邪気さや若さも続いていく。
前を向く人にあるのは、ゴールじゃない。次の未来、希望へと続いていく素敵な素敵なスタート、中間地点だけだ!
ゴールは何処に? 夜野 舞斗 @okoshino
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