キラ☆ふわ de Yell!

ながる

キラ☆ふわ de Yell!

 今年もこの時期がやってきた。

 手先があんまり器用じゃないから、いつも戦々恐々。男の子だったらもう少し楽かもしれないと思ったりもするけど、女の子を着飾らせるのはやっぱりわくわくしちゃう。

 つるんとしたピンクのサテンの生地で出来た膝上ワンピース。下にはパニエ代わりにフリルが段になったようなティアードのショートパンツを穿くんだそう。

 肩紐は首の後ろで結ぶようになっていて、サイズ調整できるように少し長め。共布で作ったシュシュは二の腕と足首に一つずつ。毎年作るのは大変だからと、以前に作ったものを使い回して、細かな装飾を変えて利用するのだ。


 今年のお遊戯会はプリキュアのエンディング曲に合わせて少しアレンジしたものを踊るらしい。娘は幼稚園でも帰って来てからも練習に余念がない。お陰でスマホは常にプリキュア! 口ずさみながら一緒に踊れちゃうくらいにはプリキュア。

 で。踊ってばかりもいられない。娘が持ち帰ってきたワンピースにビーズや小さなポンポン、ファーなんかを飾り付けるお仕事が待っている。お便りの見本を確認しながらちくちくちくちく……自分の指を刺したり、余計な布まで縫い付けちゃったり、飼い猫のミルクに邪魔されたりとアクシデントは多々あれど、期限までにはなんとか完成! 試着した娘も上機嫌。う〜ん。よくやった! と自分を褒める。

 後は本番のためにビデオカメラのチェックと充電、なんてのんきにしてたら、落とし穴は前日に掘られていたのである。


「ママ……」


 お迎えに行った玄関で、どんよりと泣きそうな顔で手提げ袋を差し出す娘。何か失敗でもしちゃったのかと、そっと先生に視線を上げると、先生も困った顔ですみませんと切り出した。


「れねちゃん、練習頑張ってたんですけど……リハーサルの途中で転びかけたお友達に巻き込まれちゃって、飾り外れちゃったんですよ。衣装の破れとかはこちらで応急処置したので、お手数ですけどお家で直してもらえますか?」


 なんてこったい。嫌ですなんて娘の前で口が裂けても言える訳がない。にこやかに請け負って、慌てて帰宅した。

 スカートの裾に手縫いでざくざくつけただけのファーがでろんと取れかけている。ポンポンもいくつか取れていて、ビニールの袋に纏められていた。胸回りにつけた方のファーはほとんど無事だったので、大丈夫、直るよって娘を励ました。

 晩御飯を食べたら片付けを旦那に任せて戦闘態勢。明日のために早く寝なさいって言ったのに、心配だったのかずっと傍で見守ってて、娘はそのまま寝落ち。旦那がベッドに運んでくれたから、さあ、もうひと頑張りだ。

 ちくちくちくちく。最初よりは心持ち丈夫になるように。

 日付が変わる前には元通りになって、安堵の溜息。娘が起きたら目につくようにとハンガーにかけて吊るしておいた。




 翌朝、娘の泣き声で目が覚めた。

 何事かと起きていくと、床に置いた衣装の前で娘が泣いている。よく見れば、縫い付けたはずのファーが一部また外れてる。ポンポンもいくつか無い?!

 よく聞くと、できた衣装に嬉しくなって、ハンガーから外し、体に当ててくるくると回っていたらミルクにじゃれつかれたと言う。慌てて「ダメ!」と引っ張ったらファーにミルクの爪が引っかかって……と、いうことらしい。

 なんだかもう笑いしか出ないけど、慌てて先生に連絡を入れた。どうにか娘の出番を最後に回してもらって、朝の支度をしてしまう。慌ただしい朝食後うなだれる娘を幼稚園に送り出したら、気合を入れる。大丈夫。被害は小さいゾ。縫い物にも慣れてきた。爪で引掛けた小さな傷は布用ボンドでとめてしまおう。

 あれ。ポンポン、少なくない?

 何やら楽しそうなミルクの姿。ちょ、ちょっとたんま! それ、返して!


 * * *


 先生に衣装を届けてホールに向かうと、どっと疲れが襲ってきた。もう座れるところも無く、後ろの方で立ち見だ。旦那はビデオカメラを用意しながら苦笑して、お疲れさまって労ってくれたけど、まだ少し心配。

 いよいよ幕が開いて、ライトに照らされた子供達。緊張気味の娘の災難だった衣装も他の子のと変わりなく見える。うん。うちの子が一番似合ってる!

 前に後ろに、くるんと回ってサイドステップ。フォーメーションも完璧! 思わず歌を口ずさみながら身体が動いてしまって、周りのお母さんたちにくすりと笑われた。おっと、自重自重。

 遠目だとよく判らないはずだけど、あそことあそこのポンポン、ミルクの毛を丸めて作った毛玉ボールなんだよね……おもちゃにされて見当たらなくなった分、すぐには見つけられなかったの。誰か気付くかな? 気付かないよね? みんな、自分の子供に夢中だよね?


 最後にビシッとポーズを決めた子供達に盛大な拍手が送られる。

 ずっと真剣な表情だった娘も、こちらを向いて満面の笑みを浮かべた。



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