璃球国の噂
水岔 円
序章 噂
「そりゃもう真っ黒だって話じゃないか。王子が染まってしまわないか心配だよ」
「手遅れって話も聞くぜ。″
「そんな…かわいそうな王子」
その女は力を持たない証、黒髪黒目は闇夜のように暗く、不吉だと人々は囁く。王子は心を塞いでいたが、その者のおかげで人形から人に戻った。そして、幼さゆえにその女に懐いてしまった。この五年、女のいる亀堂に通い続けて璃球は弱っていると、嘆く。
「このままじゃ璃球のない女が王配になる」
「まさか。それはないだろう」
「王子も十六だ。子供の時ならいざ知らず、未だに亀通いしてるんだぞ。考えたくはないが…」
「やめとくれ!そんな恐ろしい話。そんなことになったら」
「そうさ、亀の女が不吉をもたらす」
ピチャンっとメダカが跳ねて、噂を口にしていた者たちが一同にそちらを見た。玄関前にある水盆の中を泳いでいるだけ。だが、まるでメダカにも聞かれてはいけないように、言葉少なにいそいそと家の中へ入っていく。
ぴしゃんと閉じられた扉の振動が、水面に波紋を起こして、メダカはくるりと回った。
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