第368話 ミレーヌの反応
クラウディアさんの中ではきっと物凄い葛藤があったに違いない。
彼女にとってもブラファー家というのは第二の故郷と呼ぶに相応しい場所であり、そこから離れる――いや、一生戻ることがないとなったら決断するのも苦労しただろう。
だが、今後のブラファー家の繁栄を考えたら、【漆黒の矢】とつながりがある自分は足枷にしかならない。だからこそ出ていったのだ。
しかし、その決意はシャーロットとローレンスさん兄妹にとっては家の名に傷がつくよりもずっと辛いものであった。ふたりにとって、もうシャーロットさんは家族も同然。それはさっきの訴えを聞けば誰でも理解できる。どんなことも一緒に乗り越えたいという強い意志で溢れていたからな。
そんなふたりの真っ直ぐな気持ちを聞かされたクラウディアさんは困惑していたが、彼女の心は間違いなくこちら側へと揺らいでいる。
あともうひと押しといったところだが、ここで気になるのはクラウディアさんがブラファー家を去る要因となったミレーヌさんだ。
彼女は三人のやりとりを静観。
口を挟むことなく、黙って見つめていた。
その行動が果たして何を意味するのか……俺たちも静かに見守り続けていたが、ここへ来てとうとうミレーヌさんが沈黙を破った。
「姉さん、やっぱり戻った方がいいんじゃない?」
意外にも、彼女はクラウディアさんにブラファー家へ戻るよう勧めた。
「私はひとりでも大丈夫だから」
「ミレーヌ……」
「最初は労働力を取り戻そうとしていたのかと思ったけど、それなら別の人を雇うだけでいいわけだし。大切にされている証拠だよ」
ミレーヌさんの言葉に俺たちは思わず「うんうん」と頷く。
この人……最初は強引にクラウディアさんを連れ出したのかと思ったけど、そういうわけじゃないみたいだな。
「せっかくいい場所を見つけたんだから、手放しちゃダメだよ。なかなかないよ? 貴族の子息と令嬢が使用人を直接連れ戻しに来るなんて」
ここへ来てトントン拍子に進んでいくクラウディアさんの復帰話。
――が、ローレンスさんにはどうしても気がかりなことがあるらしい。
「ミレーヌとかいったな」
「えぇ」
「君にはシャーロットの件以外にも聞きたいことがある。悪いが、騎士団の詰め所まで御同行願おうか」
「お断りするわ。どうせ【漆黒の矢】について情報を得たいんでしょうけど……今の私は組織の規模どころかどこに拠点を置いているかさえ知らないんだから」
「そうか……」
目に見えて落胆するローレンスさん。
そんなに【漆黒の矢】ってヤバい組織なのか?
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ダンジョン・ファーム ~家を追い出されたので、ダンジョンに農場をつくって暮らそうと思います~ 鈴木竜一 @ddd777
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