あなただったらどちらを選ぶ……ゴールへの道【KAC202110】

あなただったらどちらを選ぶ……ゴールへの道

　ここに赤と青の銅線がある。どちらかがセーフでどちらかがアウトの。

「おい、あとは君の運に任せるしか無い、今まで仕掛けを解いてきた経験で犯人のプロファイリングするんだ。ヤツがどちらを爆弾につなげたのかを」

　超高層ビルの中階層、僕たちがいる階は閉鎖されているので、上の階の住人は逃げ出すこともできずに何百人もが救助を待っている。

　時間は21時を過ぎ、闇の中、ビルの回りを警察やテレビ局のヘリがホバリングしながらライトを当てているのでまぶしい。

　『森（もり） 盛男（もりお）』、世間を騒がせてきた連続爆弾魔の犯人。多くの死傷者を出した憎むべき存在。本日１１時にスーパーのトイレで緊急逮捕された。

　爆発物処理班である冬馬（ぼく）は、先輩とふたりで森が仕掛けた爆弾を解除しているのだ。

「あと一つ、どちらかの線を切って起爆しなければゴール、ぼくたちの勝ちだ」

　まさに生か死の２択。普通の爆弾魔程度であれば仕組みを見れば簡単に解除出来るが、さすがは連続爆弾魔、シンプルで美しい配線に惚れ惚れしてしまう。

「先輩、これは凄いです。全然分かりません……先輩ならどちらを切りますか」

　僕の問いかけに黙って首を振る。そしてそっと「君が選んだ色を信じるよ。余計な情報を入れると混乱するだけだ。君が選ぶんだ、

　赤　か　青

か」と力強く言った。

　思い返してみよう、森盛男のことを……。逮捕時は黒いズボンにグレーのシャツを着ていた。仕事はコンピュータ関係でプログラマーを仕事にしていたが、数日前に退職している。

(まるで捕まるのが分かっていたようなタイミングだな……)

　そして犯人の部屋を家宅捜索した結果、主に黒やグレー系の服が多く青い服も数着かあった。赤は少なくピンクも少しあったようだ。壁紙は白で普段は和室で過ごしていることが多い。トイレの壁は薄ピンクで熊の柄が描かれていた。

(これは、結婚していた時に奥さんの趣味で建てられたみたいだな)

　どちらかといえばインドアタイプ。多くのDVDや録画した画像があったらしいな……アニメが多いと聞いたが……。しかし少なからず公園や桜などの写真も残っていた。

(写真は背景しか写っていなかったと言うし、ひとりで行っていたようだな)

車は青の軽自動車、既に１０年は乗っている。彼は青が好きなのか……いや、パソコンの筐体は赤だと聞いている。彼の言葉を借りるなら「赤は怒り、青は平穏」そんな言葉でこの状況を煽っていたそうだ。

　A型の３５歳独身。３年前に家庭をかえりみず趣味に没頭しすぎて離婚されている。子供はふたり、仕事では優秀だったようだ。

　窓越しに見えるヘリコプター、強い風を周りに作り出して窓ガラスが微かに揺られている。

　それにこちらに向けているライトが眩しくつい目が向いてしまう。集中力を乱すのはやめてくれ。

　目の前に再び目を移すと、タイマーの時間は残り一分。既に外したいくつかの仕掛けを目で追って、手に持っている赤と青のコードに辿り着く。

　ハサミを赤いコードにかける……

「いやっ違う」と、目を伏せてハサミを腹の前に引く。

　ハサミを青いコードにかける……

　残り３０秒、「やつは青が好きな可能性も」と、一気に手を引く。

　２０秒、１９秒、１８秒……

　１５秒、１４秒、１３秒……

「おい、早く決めるんだ。間違えてしまうのは構わん。でも、切らないまま……何もしないまま死ぬのはごめんだ」

　先輩の怒号が耳に届く。残り時間を知っているかのようにヘリコプターがビルから離れていった。

　５秒、４秒、３秒……

「よし！」

　意を決した。僕が切ったのは……『◯◯色』……パチン！

　君が切った色は『　　　』色！！

↓

↓

↓

「ははは、俺の爆弾に不可能はないんだ。起爆装置は赤！　赤を切っていたらビルはポッキリ折れただろう……どれだけの被害が出るのか想像も出来ないな」

　取調室で森盛男は高らかに笑うのであった。