勇者と魔王のゴールイン
武海 進
勇者と魔王のゴールイン
勇者と魔王、二人の因縁の対決は勇者の勝利に終わった。
「我の負けか。勇者よ、止めを刺すがいい」
砕けた魔剣を捨てた魔王は、覚悟を決めたのか、兜を脱いで角が生えている以外は人間と変わらない、それもかなりの美形の素顔を晒す。
「お前、女だったのか」
「だったらどうする? 貴様も我を女と見縊って魔王と認めぬとでも言う気か!」
「そんなことは無い。俺とて勇者になる前は些細な違いで貶められてきた」
魔王と同じ様に兜を脱いだ勇者のそれぞれ別の色の瞳を見て言葉の意味を理解した。
「貴様、オッドアイなのか」
言葉の端々から互いに似たような過去を持つと感じた二人は、人類と魔族の最終決戦などどうでもよくなり、その場に腰を下ろして互いの過去を語り合った。
魔王は、先代の魔王である父が病死したことで急遽その後を継いだ。だが、先代の頃から使えていた側近や部下たちは彼女が女であるというだけで、表では忠実なふりをして裏では何度も罠にはめて魔王の座から引きずり降ろそうとした。
それでも彼女は魔王の座を守り抜き、全魔族に自分こそが魔王だと認めさせるため懸命に努力を続けてきた。
「まあ、結局誰からも認めらることは無かったがの。最初は偉大な父から継いだ役目を全うするための努力であったが、今になって思えば、ただ誰かに認められたかっただけだったのかもしれんな」
魔王の過去を聞いた勇者が今度は自分の過去を語り始めた。
彼はとある貴族の妾の子だった。母親が小さいころに病死し、その後は貴族である父に引き取られた。
だが、妾の子というレッテルと、人とは違う瞳のせいで義母と腹違いの兄弟たちからは疎まれ、屋敷のメイド達にすら軽んじられた。
唯一の肉親である父はそんな彼に手を差し伸べるどころか何も見て見ぬ振りをした。
そんな彼の人生は、聖剣に選ばれた勇者となったことで一変した。
「今まで俺の事を疎んできた人間達が手のひらを返したように俺にすり寄ってきた。そんな奴らを最初は軽蔑したくせに結局は受け入れ、もてはやされて悦に入る辺り、俺も浅はかな人間だったようだ」
勇者は自嘲気味に笑う。魔王もそれに釣られて笑い出した。
「くっくっくっく、我らは存外似た物同士じゃったようじゃな。互いにただ認められたくて魔王として、勇者としての道を突っ走って来た訳じゃ。しかし、この二つの道の先にゴールは有るのかのう?」
互いにこれまで長い道を歩んできた。しかし、その道を誰だけ進もうとも、彼らが心から望むゴールにたどり着くことは無いのかもしれない。
だが、命を奪い合っていた二人が今や互いを知り、認め合った。勇者は魔王とならば、今までのゴールの無い道とは違う、本当に歩みたい道を歩めるではないかと思った。
魔王にそのことを打ち明けると、魔王も同じ考えだったようで、勇者の提案を受け入れた。
勇者と魔王の決戦から一月が経った。人間の国も魔族の国も上へ下への大騒ぎになっていた。その理由は、行方不明になった勇者と魔王にあった。
激しい戦いで誰も近寄ることのできなかった決戦の場から、戦いが収まっても一向にどちらも姿を現さないことを疑問に思った人間達と魔族達が恐る恐る決戦の場に立ち入ると、そこに二人の姿は無かったのだ。
両者互いに魔王と勇者を血眼になって探したが、結局二人が見つかることは無かった。
そんな騒ぎになっているとはつゆ知らず、二人は海を行く海賊船の甲板にいた。
「おう、お二人さん!もうすぐ新大陸に着くぜ!」
「ありがとう、船長。すまなかったな、こんな遠くまで来させてしまって」
「なーに構わんさ。がっぽり運び賃は貰ってるからな。それに新大陸にはまだ見ぬお宝がわんさかありそうだしな」
豪快に笑う船長にを余所に魔王が勇者にの腕にまとわりつく。打ち解けあった二人は打ち解けすぎて夫婦となっていた。
「しっかし勇者と魔王がゴールインとはおったまげたぜ」
船長の言葉に魔王は頬を膨らませて怒る。
「何を言っておるか! これはゴールインではなく、リスタートじゃ!」
魔王の言葉に勇者も頷く。二人は、これまで生きてきた道を捨てる為に海賊船に乗り込み、発見されて間もなく、自分達の事を知る者がいない新大陸までやってきたのだ。
この未知の大陸で二人は一つの道を歩み始める。心から望んだゴールにたどり着く為に。
勇者と魔王のゴールイン 武海 進 @shin_takeumi
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