あるか分からない、見えないゴールを目指して

仁志隆生

あるか分からない、見えないゴールを目指して

 もう、どのくらい進んだだろうか。

 どのくらいの時が経ったのだろうか。

 自分でも分からない。

 

 この道は一本道であるが、障害物が多い。

 それに触れると死んでしまう。

 時には魔物も出てきて、やはり油断すると死んでしまう。

 

 それでも俺は、この道の終わり、ゴールを目指して進んでいく。

 

 たとえゴールに着いたとて、それで富や名声が得られる訳ではない。 

 それは人から見れば、馬鹿げた事かもしれない。


 それでも俺は進んでいく。

 笑いたければ笑うがいい。


 俺はただ、この道の終わりを見たいだけだ。

 それだけは、時が経とうともどんな目にあっても忘れない。


 などと偉そうな事を言ったが、途中で挫けそうになった事は何度もある。 

 どこまでも続くこの長い道。

 進むのは険しいのに、引き返すのは案外容易である。


 ああ、もう諦めようか。

 なんだか瞼が重くなってきた。 

 引き返そうかな。



 いや、やはり諦めたくない。


 あちこちで「こんな所だろうか」とか色々噂もあったが、実際はどんな所なのか誰も知らなかった。

 それなら俺が最初の一人になってやる。

 そして皆に話してやるんだ。 

 こんな場所だったんだぞ、って。


 俺は目をこすり、また進み続けた。




 もう、どのくらい進んだだろうか。

 どのくらいの時が経ったのだろうか。

 自分でも分からない。

 

 ふと思った。

 俺は本当はもう、死んでいるのではないかと。

 どこかで焼け焦げたか、魔物に食われたのではないかと。

 けど俺はそれに気づいていなくて、魂だけになって進んでいるのではないかと。


 体は透けていない。

 

 だが、と思い頬をつねった。

 ちゃんと痛みがある。

 少なくとも死んではいないようだ。

 馬鹿げた事を思ってしまったな。

 さあ、進もう。




 もう、どのくらい進んだだろうか。

 どのくらいの時が経ったのだろうか。

 自分でも分からない。


 終わりがあるのだろうか。

 ゴールがあるのだろうか。

 もしかすると、無いのでは。


 いや、きっとある。

 俺が目指すゴールは、きっとある筈だ。



――――――



「なんて思いながら進んでいるのかな、こいつ」

 俺はボソッと呟いた。


 目の前にあるのは、もう何年前に買ったか忘れた古いブラウン管テレビ。

 そのテレビの前に置いてあるのは、これまた古くなったがまだまだ動くテレビゲーム機。

 そのテレビゲーム機にセットしてあるのは、三十年以上前に発売された白い筐体のカセット。

 とある事があってから、子供の頃以来にまた遊んでみて思った。


「こいつ、ゴールが無いと知ったらどう思うだろうなあ。プレーヤーの俺はググって調べたとき『おんどりゃあああ!(笑)』だったけど」



 前面に貼られている絵には、背中に二つの風船をつけた主人公が描かれている。

 そのソフトの名は「バルーンファイト」

  


 彼は今なお、どこかでゴールの無い道を進み続けているのだろう。


 自分で創作してゴールに辿り着かせるのは容易でないが、やろうと思えばできる。

 だが、できれば公式で。




- 俺は諦めないぞ。いつか、いつかゴールに辿り着いてやる! -


 そんな叫び声が聞こえた気がした。

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あるか分からない、見えないゴールを目指して 仁志隆生 @ryuseienbu

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