「勇者よ、強くなったな。実は私はお前の……」討伐してから正体を明かしてももう遅い! ほんと遅い! 戦う前に言って! 倒した魔王が俺の家族らしい件について!
kattern
第1話
俺の名はクーヤ。
魔王を倒すために仲間と旅をしている勇者だ。
小さな村で父と母の三人で暮らしていた俺は、魔王の軍勢により家族と故郷を失った。村の人々は石に変えられ、勇者の血を引く母は魔王軍により連れさらわれた。
助けて貰った王国の女騎士セイラから、魔王を倒せるのは勇者の血を引く者しかいないと告げられ、俺はその手に剣を取った。
多くの出会いと別れ、そして血で血を洗う魔物との激闘。
険しい道のりを越えて、ついに俺は最後の決戦を終えた――。
そう、魔王との最終決戦を!
「勇者よ、強くなったな。実は私はお前の……」
「正体を明かすのが遅い!」
決着してから言う奴があるか、バカ!
おもいっきり倒しちゃってから、実はとか言われてもどうしようもないじゃない!
実は魔王は肉親でした――世界の平和か肉親の情けか、選択を迫られる勇者!
そういうテンプレでしょ、魔王の実はメソッドって!
ぶっ倒して消滅五秒前、もはやエンドロールがスタンバってる状況で、そんなことを今更言うなよ! 興ざめ! 言わない方がよかった奴!
「いや、だって、なんか言う流れじゃなかったから……」
「むしろどのタイミングで言うんだよ! 勇者と魔王がはじめて顔を会わせる瞬間、ついにたどり着いた魔王の下――以外にどこでなるんだそんな話!」
「えっと、一緒に崖から落ちた時とか?」
「あるよそういう展開! 確かにあるけど! 宿敵と一緒に危機的な状況に陥って、背に腹は代えられないって力を合わせる奴! いつ裏切るんだってハラハラするけれど、結局どっちも裏切らなくって、お前との決着はいずれつける的な――!」
けどそれは旅の途中だろうがい!
こんな旅の終わりでそんなことは起きんわい!
床に伏して今にも倒れそうな魔王に向かって俺は叫んだ。
遅いんだよと声を大にして叫んだ。
激闘後、残りHP一桁なのに叫んだ。
出会った時は鎧姿。
第二形態でドラゴン。
第三形態で巨大な魔人になった魔王。
はたして、こんな奴が俺の肉親――そしてその血が俺に流れている――と思うと、少しぞっとする。
いや素顔を見せないからなんか隠しているなとは思っていた。
思っていたけど――。
「仕方ないでしょ! だって、勇者ったら聞いてこないんだもん!」
「……逆ギレて」
「これみよがしに鎧着て、正体隠していますアピールしてるじゃん! だったら聞くでしょう! お前はいったい何者なんだ……って!」
「いや、戦闘前に聞いたけど? 『お前はどうしてこんなことをしたんだ? 何が目的なんだ魔王よ?』って?」
「そんな回りくどい言い方しないでよ! もっとハッキリ言わないと分かんないわよ、バカ!」
「ラノベのめんどくせえヒロインかよ」
ワガママ彼女か。
ゼロ年代ヒロインか。
そして、魔王よ、お前ってば女だったのか。
女魔王だったのか。
だったらもっと旅の途中でからんでこいや!
冒険の途中で何度も顔を合わす訳ありヒロイン的に出てこいや!
最後の最後でポッと出て来ても、なんの情も湧かないでしょそんなの!
あ、魔王って女だったんだ。
ふーん、エッチじゃん。
――って、なるわけないだろ!
もっと展開を考えろ! あと、出てくるタイミング!
そんなんだからこんな事態になってんだよ!
この――バカァ!
「勇者よ油断するな。これもまた、魔王の罠かもしれない」
「セイラ(女騎士)……!」
「ちなみに私は、生き別れの妹に百ゴールドかけよう」
「ギャンブルすな」
「そうです勇者さま。魔王は滅すべき存在です」
「ユリアさん(僧侶)……!」
「けど、巨乳ゆるふわ天然お姉ちゃんキャラなら、しょうがないですね?」
「ないわけあるか」
「なに怖じ気づいてんだ! こいつは魔王だぞ! 勇者!」
「魔王に故郷を滅ぼされし盗賊の乙女ホロ!」
「……けどよ、もし、お前のお袋さんだったら。俺は、俺は」
「母親がこの流れで出て来たら自分に即死魔法かけるわ」
肉親が女魔王だったとしても嬉しい要素って少なくないですか。
逆に赤の他人とかの方が、ロマンス広がったりしませんか。
どうなんですか父さん。(白目)
へぇ、そうか、魔王って実は女だったんだ。女パーティなのにまったくロマンスがなくて、俺の人生クソゲーとか思っていたけれど、ようやく春が来たのか――。
とか、少しでも喜んだ、俺が恥ずかしいですよ!
肉親じゃロマンス始まらないわい!
そして、母さんさらわれてるから、これ母さんの可能性が高いよ!
即死魔法自分にかける五秒前だよ!
ザ○!
デ○!
ハマ○ン!
ニンジャ! ナンデ、ナンデ!
覚悟を決めた、その時であった。
「お待ちなさいクーヤ! 母は魔王ではありません!」
「母さん!」
魔王が座っていた玉座。
その後ろにある扉をバーンして、さらわれた母さんが姿を現した。
「どういうことなんだい母さん! 魔王が母さんじゃないって!」
「言葉の通り! 落ち着きなさいクーヤ! そんなに難しい日本語じゃなくてよ!」
「そうだけれど!」
「貴方が心配するのは分かるわクーヤ。身内が女魔王だったらロマンスが始まらないんじゃないか。ぬるんべちょんいやんばかんな展開を期待していたのに、そんなのあんまりだって言いたいのよね」
「いいかた」
「けれども安心して! こんなこともあろうかと、先手は打っておいたわ!」
今度こそ本当にどういうことだ。
先手を打っておいたとは。
すると、母さんの背中からわらわらと、多くの若い女性が現われる。
どれもこれも目を見張るほどの美少女の彼女達は、俺を見るや黄色い声を上げた。
これは、まさか――。
「すでに集めておいたわ! 貴方の知らない、血の繋がらない妹たちを!」
「「「「「「「「「「「「頑張って、お兄ちゃん!」」」」」」」」」」」」
「多っ!」
「十二人居るわよ!」
さらにこれだけじゃないわよと母さん。
その声に合わせて奥から出て来た女性は、今度は少し大人びている。
こ、これは、まさか――。
「六人の義理のお姉ちゃんと二人のお従姉妹ちゃんよ!」
「「「「「「「「クーヤ!」」」」」」」」
「だから多っ!」
義理の妹が十二人、義理の姉が六人、従姉妹が二人ってなに。
狂気しか感じないんだけれど。
身内とラブコメってだけでなんかヤバいのに、ハーレムってなんなのさ。
発想がもう病気じゃん……。
って、違う、ドン引きしてる場合じゃない!
今は魔王の正体! 正体の話をしているんだよ!
「さぁ、これで分かったわねクーヤ! 母と、妹と、姉の線は、この時点で消えたわ! 魔王の正体はそれ以外の何かよ!」
「いやまぁ、たしかに消えましたけれど。逆にそれ以外で身内の女性っています?」
その時、魔王城の床に雷が走る。
見たことのない鉄の馬に乗ってやって来たのは、白衣の女の子――。
「ここが500年前。まだ、科学が未発達で魔法が信じられていた時代ね」
「なんか未来から来た!」
「はっ、その姿は間違いない! 私のご先祖様!」
「子孫も埋められたよ!」
すると次は俺の持っていた勇者の剣が光り出す。
勇者の一族しか抜くことができないその剣は、気がつくと人の形を成していた。
その顔立ちや身体付きに、どことなく見覚えがある。
「……ついに魔王を倒したのだな我が子孫よ。よくぞ一族の務めを果たした」
「ご先祖様がこのタイミングで来た! もっと早くでてくれよ! パワーアップイベントの鉄板でしょうこれ!」
「魔王を倒したお前にはまだ一つ務めが残っている。後の世に勇者の血を残し、戦いの記憶を伝えるというな。つまり――S○Xだ!」
「一番先祖がやべぇ!」
母、姉、妹、子孫、ご先祖様。
確かにもう身内の女キャラは全部出たよ。
これならもうどんなキャラが出てきても、気まずいことになりはしないよ。
逆に、これだけガッチガッチに固めて置いて、どういう身内女キャラが出てくるのか興味が湧くくらいだよ。
そう――。
「長々と引き延ばしたが魔王よ! 今こそお前の正体を暴く時が来た!」
「ふふふっ、どうやらそのようだな! しかし、しかしだ! 甘いぞ勇者よ!」
「なに!」
「この私の正体! それは、母でも、姉でも、妹でも、子孫でも、ご先祖でもない身内の女キャラクターだ!」
見ろ、これが魔王の正体だ。
そう言って、ついに魔王が鎧を脱いだ。
その顔にたしかに俺は見覚えがあった。
茶色の髪。
使命を帯びた強い眼差し。
鍛え上げられた肉体。
そして――これだけ見覚えのないおっぱい。
そう彼女は、俺がこれまで死ぬほど見てきた――。
「お、俺だと⁉」
「そうだ! お前だ! 私こそは、お前から別れた勇者の別側面! 貴様の中にある負のエネルギー! そう、私とお前はもとは一つの人間だったのだよ!」
俺と同じ顔をした女だった。
いや、まぁ、同じと言いつつ、それは色っぽくなってるけれど。
ちゃんと――おっ、これはアリだなきゃわわって美少女にはなってるけれど。
それでも間違いなく俺がTSしたんだなと分かる顔をしていた。
なんということだ。
まさか魔王の正体が俺の別側面だったなんて。
するとこれまでの冒険は俺の壮大な独り相撲だったというのか。
そんな、どうして、なんでそんなことに。
「勇者よ、気に病むな。これには深い訳はない、オチの都合だ」
「オチの都合て」
「さぁ、この長き旅を終わらせよう。私たちはもうゴールしていいんだ。善と悪、男と女、二つに別れた魂を今ここに一つにするときが来たのだ」
なるほど、スゲー冒険の終わりっぽい展開。
ひと昔前に流行ったゲームのラストっぽい展開だわこれ。
めっちゃここまで古いRPGって感じだったけれど。君が伝説になる物語的な流れで進んできたけれど、いきなりすこし前のRPGだわこれ。
テ○ルズ。
けど待って、一つにするってどういうこと。
まさか――。
「つまりS○Xってことか?」
【了】
「勇者よ、強くなったな。実は私はお前の……」討伐してから正体を明かしてももう遅い! ほんと遅い! 戦う前に言って! 倒した魔王が俺の家族らしい件について! kattern @kattern
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