スタート地点

北きつね

第1話


 今、私はどこに立っている?

 この場所は、ゴールなのか?


 なにもない、走りきった充足感はあるので、きっとゴールだろう。


 ゴールなら、後ろを振り向けが、後から走ってくる者が居るはずだ。だが、私は振り向く気持ちにはならない。自分が走ってきた道は、疲れて、走るのを止めた時に見返せばいい。


 今は、走りきった充足感に心を委ねよう。


 ゴールだと思っている場所は、次のスタート地点なのだろう。私が、走る前に確認したスタート地点は、スタート地点ではなかったのかもしれない。


 今、同じようにゴールした人たちは、新たなゴールに向かってスタートをするのだろう。


『おい。俺』


 私の中に居る、別の”俺”が話しかけてくる。


「なんだ?」


『もういいよな。”俺”は頑張ったぞ?』


 そうだ、私は頑張った。

 スタートしたときには、こんなに辛く厳しい道だとは知らなかった。知らなかったが、走り始めた。そして、ゴール地点にたどり着けた。


「そうだな。でも、”俺”まだ何も成し得ていないぞ?」


『そう言うが、”俺”は、もう無理だぞ?それは、”俺”にも解るだろう?』


 反論できない。

 実際に、もうボロボロなのかもしれない。


「・・・。認めなければ・・・。無理じゃない。私は、まだ大丈夫だ。次のスタートを切れる」


『やめておけ、どうせ、同じだ。”俺”には所詮無理だったのだ』


「違う!”俺”が言っていることも解る。でも、違う。私は、ゴールが目的ではない。スタートをして次のゴールを探している。まだ、ゴールをしていない」


『それは詭弁だ。”俺”なら解るだろう?』


「私には、わからない。わかりたくもない」


『違う。違う。違うのだ。確かに、”俺”にはわからない。でもな、自分はごまかせないぞ?』


「”俺”にわからなければ、私に解るはずがない」


『そうだな。もうゴールした場所さえもわからないのだろう?なんのために、走っていたのかも、”俺”はごまかせないぞ?』


 私の中の”俺”がニヤリと笑う。

 ”俺”に指摘されなくても、解っている、言葉で、態度で、自分をごまかしている。何者にもなれない自分を、何者かになりたい自分に指摘する。


「私は・・・」


『そうだ!”俺”。しっかり考えろ!前を見ろ、あの才能が豊かな奴らは、”俺”が頑張ってゴールに到達した場所なんて、才能を持った奴らには通過点でもない。”俺”が必死に、頑張ってたどり着いた場所は、ゴールですらない』


「うるさい!解っている!私に才能なんてない」


『違う。違う。”俺”にある才能と、”俺”がやりたいことが一致していないだけだ』


「わかっている。わかっている。わかっているが・・・」


『そうだ。”俺”は、何度苦しめばいい?”俺”は何回絶望すればいい。その都度、周りが悪い。環境が悪い。そうだ、全部”俺”が選んだ道が間違えているだけなのに、”俺”の才能を無視するのだな』


「無視なんてしない。私も解っている。でも、スタートを切ったのなら、ゴールを目指すのは当たり前のことだ。だから、ゴールまで走る。時間がかかってもいい。誰にも認められなくてもいい。私が、”俺”を認められるのなら、そこがゴールになる」


 いまは、一つのゴールを迎えた。

 満足なのかと聞かれると、わからないと答える。でも、ゴールができたのは嬉しい。素直に喜ぼう。


 今だけは、ゴールしたことを喜ぼう。

 すぐに、次のゴールを目指して走り出す。後ろは振り向かない。次のゴールがどこにあるのかわからない。スタート地点さえもわからない。でも、走り出す。

 止まって喚いていれば、”疲れない”可能性はある、誰かが手を差し伸べてくれるかもしれない。でも、喚いていても誰かの手を借りても、自分の足を動かさなければ、ゴールにはたどり着けない。遅くてもいい。ゆっくりでもいい。寄り道をしてもいい。走るのを止めなければいい。


 ゴールは、遠く困難を乗り越えた先に有るのだろう。だから、たどり着くのは私には不可能かも・・・。でも、私は足を動かす。ゴール地点にある宿り木で休息したら、ゴールに向かってスタートする。

 ゴールにたどり着けない・・・。かも・・・。しれない。でも・・・。そのときには、笑いながら前のめりに倒れよう。私は、そう思って走っている。

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スタート地点 北きつね @mnabe0709

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