仮面の落とし物
@yamakoki
仮面の落とし物
静まり返った住宅街。
辺りを最大限に警戒しながら、近くにある建物に侵入して物資を漁る。
レア武器を見つけて取ろうとしたとき、一発の銃声とともに俺の命は儚く散った。
「うわー、やられた!」
「どこにいたんだアイツは。俺も画面見てたけど影も形もなかったぞ」
「十七キルとか相変わらずヤバいな」
周りにいたチームメンバーが畏怖の声を上げる。
俺の画面にはスナイパーライフルを構えながら佇む白髪の少女が映っていた。
「うげっ、マジかよ」
ヘッドホンを取り、ベッドに転がった俺は大きなため息をつく。
俺たちは最近話題のFPSゲーム、バックリングでチームを組んで大会に出ている。
自慢ではないが、おかげさまでアジア二位の地位につけている。
――しかし一位ではない。
この一位が曲者で、普通なら四人でチームを組んで出るはずの大会にソロで突入。
幾度となく優勝をかっさらっている。
プレイヤーネーム、ロール。
公式の場に現れるときは仮面をしていて、女性としか分からない謎のプレイヤー。
二つ名は雪の魔女。
マップに雪が降り積もっていた冬の大会で、一人で三十二キルを達成した怪物だ。
そもそもが一度に百人しか出れない大会である。
一人で大会参加者の三分の一を狩ったと言えば、その異常さが分かるであろう。
しかも相手は連携を取っている。
圧倒的に不利なはずなのに、涼しい顔で勝利をかっさらっていく。
本当に恐ろしい相手だよ。
「蓮夜、ポイントを確認してくれ。一位は……取れないまでも二位は死守したい」
「分かった。えっと、六十二ポイントだな。現三位が五十三ポイントだから安心だ」
この大会ではキル数、つまり敵を倒した数でポイントがつけられる。
一キルするごとに三ポイントが加算され、ベスト八はボーナスポイントがつく。
全チームが五試合行い、俺たちは三試合を終えた時点で六十二ポイント。
現三位はすでに四試合を消化しており、抜かされることはないだろう。
するとチームメイトの遠距離担当である翔が余計なことを言い出した。
「あの魔女様はどのくらい稼いでるんだ?」
「翔、それを言っていいのか? 聞いて驚け。八十四ポイントだ。絶望だろ」
俺の言葉に全員が沈黙した。
自分たちより二十ポイントも高いのにも関わらず、未だに二試合を残している。
一位になるのは絶望的ともいえた。
「随分と辛気臭い顔をしているのね」
「げ、真紀」
「げ、とは何よ。せっかく飲み物を持ってきてあげたというのに。渡さないわよ?」
「本当に申し訳ありませんでした」
チームの斥候担当である渉と、その彼女の真紀が夫婦漫才を繰り広げている。
本当にこいつらは……。
「お前たちはどこでも変わらないな」
「さっきまでの暗い雰囲気を吹き飛ばそうと思ったのよ。じゃなきゃつまんないし」
真紀はそう言って不敵に笑った。
本当に渉が羨ましい。
彼女は、チームの方針を決める会議が終わったお土産を持ってきてくれる。
それだけじゃなく、大会の会場までわざわざ来てくれる。
曰く、『渉が入っているチームなら援助は惜しまない』とのこと。
めちゃくちゃ献身的な素晴らしい彼女じゃないか。
こんなゲームに興味などないだろうに。
「そっか」
「それじゃ、私はもう行くわね。最後まで頑張って」
真紀さんは俺たちに飲み物だけ渡すと、観客席の方に向かって走っていった。
大会開始まであと十分。
もうすぐ装備などの準備を済ませて、ゲームにログインしなければならない。
リーダー兼短距離担当の俺が指示を出そうとしたとき、靴の先に何かが当たった。
「何だ?」
「仮面……まさかそれって!」
中距離担当の慎吾が素っ頓狂な声を上げる。
それもそのはず。
俺が拾った仮面はあの雪の魔女、ロールが着用している仮面だったからである。
「おっ? えっ、何してんだ?」
続いて怪訝な声を上げたのは翔だった。
そちらに視線を向けると、観客席に向かった真紀が地面に這いつくばっていた。
「真紀さん、本当に何をやっているの?」
「ちょっと落とし物をしちゃっ……て……」
真紀がこちらを振り返り、硬直する。
視線は俺が持っている仮面に注がれていた。
「まさか……」
「しくじったわ……」
これが俺たちと最強のソロプレイヤー、ロールのファーストコンタクトだった。
仮面の落とし物 @yamakoki
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