いかれた奴らを紹介するぜ!
夜野 舞斗
そろそろいいんじゃねえか?
「今日はいかれたメンバーを紹介するぜ!」
ステージ上から観客に向けて叫ぶと、黄色い声が発された。「きゃーかっこいい!」やら「抱いて―!」やら。
最初に自分から。
「ボーカルのシンジ! このデスボイスでお前等の脳みそ、心臓全てを震わせてやるぜ! がたがた言わせてやるから覚悟しな!」
何て言うと、ファンがまた大盛り上がり。最高だ。こちらは手を振りながら、二人目のメンバー紹介をする。
「おっと! お次はキーボードのアサカだぜ! 奴の奏でるメロディーは音楽性をぶち壊す! まさに音楽界のバランスブレイカーとなっちまってるぜ!」
アサカはその手で思いきりキーボードの鍵盤を叩き、不協和音をかき鳴らす。いいぜ、いいぜ。これこそ、いかれてるってものよ。
二人目がくれば、お次はと三人目の紹介だ。
「ギタリストのカオリ! 紅一点ではあるが、奴のかき鳴らすヘビーなメタルは誰にも止められない! 感電してきなぁ!」
彼女の狂ってるところはそれだけではない。彼女はギターをちょびっとかき鳴らしたかと思えば、思いきり床に叩きつけた。弦やらなにやらが壊れていくのであるが、問題はなし。
彼女はすぐさま、何事もなかったようにギターを取り出した。ちなみに壊れたギターは床に散らばったまま。後で掃除しなきゃならんかな。
それはどうでも良きとして。
四人目だ。
「チームのエースでもあるドラマーのレイトだ! 奴の力は岩をも砕く。今日はお前等のハートもブロッケン! 覚悟しとけよ! てめぇらぁ!」
またファンの方々の力強い声援。俺達は活気づけられ、楽しいバンドを続けられる。
近々、キーボードのアサカが他に引き抜かれるという話でも出てるが。ギタリストのカオリが報酬の件でもめてるとかという話も出ているが。
問題ない。問題ない。
お前等、いかれたメンバーは俺の大事な仲間だぜ。
今日も明日も俺はこいつらを紹介してみせるぜ。
「……さて、なんて言ってたが、もう解散とは。音楽性の違いとかじゃなく、まさかファンにDVDの無断転載をされていて……それで売り上げが
「それならレイトもそうじゃない! 結構、壊してるじゃない!」
「それならシンジも結構衣装にこだわってて、衣装代がとんでもなく大変なことになっていた……」
「それならアサカが、動画サイトに俺らの動画を勝手に無断転載して広告収益でもうけて」
「それなら……それなら!」
バッタバッタバッタバッタ。殴り合い、潰し合い。
なんてのが僕の夢。
実際は、僕が部屋の中でエアあばれをしているだけである。
実は他のいかれたメンバーもファンも全て全て自分一人の自作自演。こんなことがあれば良いなぁ、とソロライブを続けていたのである。
ソロプロのライブ。
いや、そもそも僕は楽器とか使えない。ボーカルもそこまで巧いと言える程ではない。目立ちたがり屋の性質で単に有名になりたいだけなのである。
だから、今日も一人で勝手に多人数の真似をして、ライブの模範演技をやってみる。
「いつか、有名になりたいけど……そろそろ仲間を集めないといけないんだよなぁ。そろそろ仲間できても、いいんじゃねえか?」
いかれた奴らを紹介するぜ! 夜野 舞斗 @okoshino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます