神竜王のダンジョン探索〜平凡な俺がスキル【早熟】で最強の竜騎士に。モンスターをサクサク狩れるので、俺だけレベルが上がりまくるようです。〜

第36話 ガーゴイル戦

　ガーゴイルとの戦闘は、いっこうに進む気配を見せない。硬さと素早さの両方を兼ね備えているがゆえに、面倒な相手となっている。

　ついこの前までは石化して静かにたたずんでいたとは思えない。

「このっ！」

　三匹のガーゴイルが踊るように舞う。剣は奴らの鱗を軽く撫でるだけ、もしくは軽く傷つけるだけで、決定打を与えられていない。

　余計に体力を消耗してはいけない。とはいえ、階層ボスですらないガーゴイルに苦戦していることに、焦りを禁じえない。そしてますますヒートアップする。

　有栖の爆弾は、ガーゴイルが疲労を見せつつあるからか、着実に刺さっている。

「竜司、リラックス！　落ち着けば充分倒せるさ」

「あいよ」

「行動は不規則に見えて、ある程度は規則的。意識すればわかるよ」

「サンキュー」

　無愛想だったが、この際かまわない。

　ガーゴイルの動きが着実に鈍くなっている。深呼吸して精神を整えたら、攻撃再開だ。

「【真竜融合】」

　いつものように竜となった俺は、黒剣を構える。

　いまは、神竜に乗らない。こちらから動かず、攻めてくるガーゴイルを迎え撃つ。

　簡単なことではない。ヒットアンドアウェイを繰り返すガーゴイルが相手となれば。

「いま必要なのは五感ではない、第六感、だ」

　あえて視界を頼りにしない戦法をとる。研ぎ澄まされた第六感。数回、攻撃を受けたがノーカウント。

　待つのだ。俺は、やれるときにやるだけだ。目を瞑っている俺に油断したところを、つく。

　ガーゴイルとて、ずっと緊張感を持っているわけではなかった。

（斬ッ！）

　いうが早いか、この目で捉えることなく、ガーゴイルを斬った。

　返り血が、頬に跳ねていた。生々しい落下音。死の音だ。

「さすがだ、キミは」

　いったのは、爆弾使いこと有栖である。目を開けると、彼女もちょうど、一体のガーゴイルを爆散四散させたところだった。

　それから、ガーゴイルの倒し方を心得た僕らは、なんとか敵の殲滅に成功したのだった。

　八ツ橋のサポートあっての攻略だった。いささか捨て身になりすぎた面が否めない、というものだった。

「手こずってしまったな」

「これも経験というものだろう？　次は、もうすこし楽に倒せるはずだ」

「そうだな」

　神竜も『こういうこともある。汝の場合、いずれなくなろうがな』というように、有栖と似たような意見だった。

　ダンジョンにおいて、楽観主義者であるのは死に近づく行為だ。

　この階層だからモンスターもさして強くないに違いない、苦戦するはずがない、負けるはずがない。

　こういった固定観念、思い込みが、幾人もの探索者を帰らぬものにしたのだと、神竜は脳内で語った。

　俺は答えなかった。

　帰らぬものとなった人物の中に、俺の兄、赤城王牙が入っているのだろうか、と疑念を抱いたからである。

　いままでのところ、王牙の死因について、詳細な説明は得られていない。

　ダンジョンの受付嬢に、自分から尋ねたことも、実はあったのだが。

「ないんです。あなたの求めているようなデータは」

　そう、一方的に主張するのだった。そんなはずはない、いやしくもダンジョンを管理している機関なら、すこしは知っているはずだ――。

　しかしいくら主張しても、壊れたロボットのように、同じ趣旨の返答をされるだけだった。

　今回は、それほどまで強くないと思っていた敵に、悩まされただけだ。死と隣合わせというものではなかった。

　いずれにしても、兄のことが頭をよぎったのは紛れもない事実。いつになったらわかるのだろう。その原因がわかれば、俺は探索者をやめてしまうんじゃないだろうか……。

「大丈夫？　相当思い悩んでるんじゃない？」

　八ツ橋が、かなり心配そうに、俺の方を覗き込んでいた。

「いいや、問題ない。すこし考えごとをしていただけだ」

「考えごとにしては深刻さがひときわって感じだったよ！？　ほんとに、探索者はメンタルが命だから！」

「承知している。あまり無理はしないでおく」

　いや、探索者は爆発こそ命、と有栖は語っていたが、残念ながらスルーされた。

「いくぞ、さらなる敵を求めて」

　慣れないダンジョンでの、探索。

　それはレベルアップの場であり、新たな困難にぶち当たる場所でもあるのだ。