スカイブルー

@sakura3956

第1話

「自転車で四国一周したいな〜旅館とかホテル泊まりつつ。トイレないし、女子は難しいかな亅

マナの声で私は顔を上げた。

雲もなく晴れた空が眩しい。休日の公園は家族連ればかりだ。ブランコに乗った子どもを押す母親、自転車の前後に子どもを乗せた父親。そしてインスタに載せる写真を撮りに来た私達。公園に咲いていた、枝先が垂れた長い穂に小さい白い花をたくさんつけた植物(ユキヤナギというらしい)の前で写真を撮ったところだ。

3月の下旬、大学の入学式を待つ私達は暇を持て余していた。

「ええ?自転車でぇ?亅

脳に直結して話している自覚はある。

よく考えずに私は言葉を発した。

さっき写真を撮ったから、インスタ投稿してると思ってたのだが。

何でもないことも、家族のように話せる友人ーー槙野マナが持っていたスマホの画面を見せてくれた。



四国一周サイクリング



「いやいやいや、だいたい何kmあるの亅

「1000km」

「1000?!」

四国一周って1000kmなんだ。

サイクリングってもっとライトでしょ、1000kmって、もはや行でしょ。滝行と一緒のレベルでしょ。

「1日でじゃないよ」

「さすがにそれはわかる」

1000kmて…1000kmて…

正直めちゃめちゃ長いことしか理解できない。

マナのことだ、しまなみ海道と間違えているのではないだろうか。しっかり宿泊も考えてるけど。

「もしかして、しまなみ海道サイクリングのこと?しまなみ海道チャリで渡るのより四国一周って長いよ」

「うん、四国一周だよ。しまなみ海道も行ってみたいな〜、キツイ坂あるらしいよ知らんけど」

マップ見る?

マナがスマホをタップして四国一周のコースマップを開いた。


やっぱりめちゃめちゃ長いことしか理解できない。


「分割でね、この市からこの市まで連休や週末に走ってさ、観光もしてお土産買ったりしようよ。葉月、旅行好きでしょ」


自転車で旅行か、それはちょっと楽しそうかも。

「行こうよ〜」

私が、ちょっとニヤついたのが分かったのかマナが抱きついてきた。


春から大学生だし何か、新しいことが始めたい。浮かれてるのかな、マナも私も。


でも

「私チャリ乗れないんだよね」

「え?!…え〜?!、乗る練習からか〜〜」

「まだ行くって言ってない亅


いいや、行くね!

ユキヤナギの長い穂が風で揺れて頷いているようだった。


このときの私は、四国一周で乗る自転車がママチャリでは無いことをまだ知らない。

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