第2話

 あの女を追い出すには、どうすればいいか…私は自室で机に向かい、ひとり作戦会議を始めた。

 お兄様に直訴するのが正攻法ではあるけど、これはおそらく厳しそうだ。あれからも日を追うごとに、お兄様はカーラにメロメロだからだ。性格や振る舞いについて訴えても、全く聞き入れてもらえない。カーラは、そんな女性じゃない、僕はよく知ってる、といつもこうだ。

 そうなると、あの女の目的や真意を徹底的に調べて白日の下に晒すのが一番か。カーラにゾッコンなお兄様でも、カーラの目的が王宮の支配、さらには帝国の掌握にあるのだと理解すれば、帝国国民や臣下の手前、ここに置いておくわけにもいかなくなるだろう。まずは、カーラの情報を集めるのが先決か…

 その時、ふと部屋の壁に貼ってある地図が目に入った。

 アルカ帝国とクロア連邦は陸続きの隣国ではあるが、歴史的に関係は決して良好とは言えなかった。資源や地理に恵まれるアルカ帝国に比べて、クロア連邦は資源に乏しく、食料も慢性的に不足していた。度々連邦から難民が押し寄せ、その度に帝国は難民を追い払い、結果、両国民ともにストレスを抱える悪循環だ。

 そんな中発表された、クロア連邦大統領の娘カーラと、アルカ帝国皇帝であるスロバお兄様の縁談話。両国の関係が良い方向に向かうのではないかと、私は思った。だから最初は応援もした…いや、してしまったが正解か。

 その時、私はふと思い出した。まだ私が、カーラに友好的に接していた時、カーラはお兄様に、地下書庫を見学したいと言ったのだ。この王宮の地下には大きな書庫室があって、王宮の人間なら誰でも出入りできる。その時は私がカーラを地下書庫まで案内したんだっけ…あの時カーラは、地下書庫で何かの資料を見ていたみたいだけど、何を見ていたんだろう…

 気づいた時には、私は小走りで地下書庫に向かっていた。もしかしたら、カーラの真意を掴むための、何かの手がかりがあるかもしれない…

 地下書庫についた私は、早速カーラが見ていた資料を探す。確か、この辺だったような…あ、あれだ!

 それは、鉱石の採掘票だった。

 アルカ帝国では、鉱石を採掘する場合、何の鉱石をどれだけ採掘したかを、国に申告しなければならない決まりになっている。申告された後は採掘票に記録され、地下書庫で管理される仕組みだ。けれど、こんなのも見て何がしたかったのか、カーラの目的が全くわからない。採掘票にも、印のようなものがつけられていたりなどもない…

 結局この日は、特にカーラの情報は集められなかった。

 

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兄の婚約者の正体に気づき、絶対に婚約破棄させる話 大舟 @Daisen0926

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