兄の婚約者の正体に気づき、絶対に婚約破棄させる話

大舟

第1話

「次は、二人で舞台を見に行こう!もちろん君のために貸し切りだ!」


「まあ、それは楽しみですわ♡」


 私が部屋の前を通った時、スロバお兄様とカーラが朗らかに話す声が聞こえてきた。カーラがここ、アルカ帝国王宮に来てからというもの、お兄様はカーラにメロメロだ。全くお兄様は女を見る目がない。あんな女のどこが良いんだか…


「私が、なんとかしないと…」


 思い返せば、怪しい点はいくつもあった。まだ正式に婚約が成立したわけでもないのに、王宮内を我が物顔で歩いていたり、使用人に高圧的に接していたり、最近では気に入らない人間のことを、あることないことお兄様に告げ口までしているらしい。

 そして決定的だったのは、この帝国のどこかにある機密文書館のことを嗅ぎ回っていることだ。このままでは、お兄様もこの帝国もあの女に奪われてしまう…


「あら、そんなところで何をしているのかしら?」


 部屋から出てきたらしいカーラが、私に話しかける。ぼーっとしていて全く気づかなかった。


「い、いえ…べつになにも」


「まあ、御立場にそぐわずお暇なのね」


 本当に、この女のどこが良いんだか…


「あなたには関係のないことよ」


「あら。てっきり私は、いかにしてここから私を追い出すかを、お考えなのかと思ったわ」


「まさか。お兄様とご婚約される方を追い出すだなんて。」


「なら良かったわ。これから長い付き合いになるのだから、よろしくね」


 どこか勝ち誇ったような顔でそう言い放ち、カーラはこの場を後にしていった。私はその足でお兄様のいる部屋に戻り、お兄様と話をした。


「お兄様、もう一度お考えになって!」


 私は懇願する。カーラの王宮内での立ち振る舞いを含め、私が知ることはもちろん全てお兄様には話している。しかし、お兄様は言った。


「大丈夫だニーア、心配いらない。カーラはすごく魅力的な女性なんだ。ニーアとも、きっと仲良くなれるさ」


 半ばダメもとではあったものの、こうもはっきり言われると堪える。本当にお兄様は、あの女と…

 その後も説得を試みたが、期待の答えは得られなかった。それどころか、カーラを受け入れない私に少し不機嫌な顔を見せた。今まで、一度だってこんなことはなかったのに…私は逃げるように部屋を出た。

 こうなっては急がないといけない。こうしている間にもカーラは、ここを占拠するために動いているのだろう。お兄様も、この帝国も、私が守る。私は絶対に、二人の婚約を破棄させて、あの女をこの国から追い出す。

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