第4話 包み隠さず

「ふぅん……」

次の日。

僕は再び千負さんの病室を訪れていた。

前回と違うのは、僕も入院している人用の病人服を着ているということ。

右肩に包帯を巻かれ、松葉杖で歩行を補助している。

僕は波見山であったことを、全て包み隠さず千負さんに話した。

おそらくそれは信じられない様な話だったろうけど、千負さんは黙って聞いてくれた。

そして

「まぁ、大体納得出来たわ。ありがとう、御手洗くん」

少し微笑んで、僕にそう言った。

「……っ!?ええ!?」

声を上げて、理解が出来ないのは、僕の方だった。

「え?千負さんは、今ので……あー黒い球体が何なのかとか、何で自分が事故に遭ったのかとか、わかったわけ!?」

「ええ……まぁ、予想に予想を重ねただけだけど。私が納得出来れば、それでいいから」

なんだろう、凄いムズムズする言い方だ。

「正解にたどりついたけど、それはあなたにとっての正解とは限らないから、言うつもりはない」

そう言われている気分だった。

……それでも

「聞かせてくれないかな、その……千負さんの予想を」

「……考えれば、これだけ体を張ってくれた御手洗くんに何も言わない……というのも失礼な話ね。わかったわ」

そうして、千負さんは語りだした。



結局、今回の話は簡単な事よ。

私達が波見山には「何かある」と思ってしまった、それが原因。

……私はね、事故に遭った日、山に調査が入るって聞いて、ああこの森にも人の手が入っちゃうんだなぁ、って思ったの。

人の手が何にも無しに完全に入ってない山何て数少ないから、私はお別れのつもりでその日は花束を持って山に入ったのね。

山には神様がいる……私は祖母からそう言われてたし、私も神様かどうかはわからないけど実際人間以上の存在はいると思ってた。

その日は凄く風も穏やかで、山が私を歓迎してくれているのだと思ったわ。

そして少し歩いた後……私は会ったの。

山の神様に。

……きょとんとしないで、多分これは御手洗君の言うところの「黒い球体」よ。

でもおそらく私と御手洗くんが見たものは違う。

私は山にいる「なにか」にどちらかと言えば「神聖」なイメージを持ってたわ。

けど御手洗君は私の話を聞いて何となく山にいる「なにか」に怖いイメージを持ったんじゃないかしら。

そのイメージが、私達の前に現れたの。

……私も何を言っているのか話してて不安になってくるけど、聞いてちょうだい。

……昔から、神隠しって呼ばれる現象があるのは、御手洗くんも知ってるわよね?

神社や山で子供が消えちゃうってあれ。

その神隠しが起こる一説にね、「山の出す音が子供にのみ見える幻覚を見せた」からって言うのがあるの。

それで幻覚を見た子供が間違った道に迷い混んで行方不明になっちゃう……て所かしらね。

だから人は山をドンドン開拓していった、山がその「音」を発っさない様に。

もし天然の山であれば「大人と一緒でないとダメ」なんて言ったりしてね。

……「そう言えば、僕がいた時ずっと「サワサワサワサワサワ」って音がしてた」

へぇ……ホントに。


それで、まぁ認識の話に戻るのだけれどもね。

私が山に入った時、私が認識していた波見山の状況は「私1人で森にやって来た」と言うところだわ。

私の中でこれは揺るがない事実だったし、実際車に轢かれて意識を失うまで変わることは無かった。

だから1度見せられた幻覚を解くことが出来なかったの。

御手洗くんのおじさんは私達に幻覚を見せた波見山を1つの「楽器」と言ったそうだけれど、この時点で私に幻覚を見せた楽器が完成したわけ。

私の中で森の形は確固たるものになって……私は幻覚を解くことが出来なかった。

長く森に出入りしているのもあったかもね。

それで言うと御手洗くんは「おじさんと僕だけで森にやって来た」……それが波見山への認識だったんじゃ無いかしら。

だからあなたの笑い声を聞いた調査隊の人達がやって来た時、あなたの中でこの波見山への認識が崩れ去ったの。

「御手洗くんとおじさん」だけの森が壊れたわけね。

だから森の「音」が変わって幻覚が解けた……そんな所じゃないかしら。

私は兎も角、あなたとおじさんの怪我が傷口のわりに軽症ですんだのも、私達……子供の認識を利用したからじゃないかしら。

小学5年生が想像出来る痛みなんて、たかが知れてるもの。



千負さんとの話が終わり、僕は少しぼんやりとした気持ちで病室を出た。

最後に千負さんは「よくパニックにならなかったわね、私はよく大人びてるって言われるけど、あなたの方がよっぽど大人びてるわ」と誉めてくれた。

……いや、多分僕が鈍いだけだと思う。

今思えば、あの時何であんな勇気が出たんだろう……そんな事しか考えられない。

普段の自分と違いすぎて、夢でも見ていた気分だ。

でも、右肩で疼くたしかな痛みが、昨日の事は現実なのだと言っている。

(……しかし、何でおじさんはあんなに早く対処法に気付いたんだろう……?)

病室の廊下を歩きながら、考える。

おじさんは背中に穴を開けられたのにも関わらず黒い球体が消え去ると調査隊の人の手も借りず1人で立ち上がり、僕を病院に運んでくれた。

その時おじさんは、こんな事を言っていた。

「……お前は幸運だぞ、この現象に会うのは2度目だったからな」

(……本当なのかな……?)

千負さんは満足したようだったし、おじさんもピンピンしている。

流れに流されただけの僕だけが、モヤモヤとこれから襲い来るであろう恐ろしい程の出費への不安を抱えたまま病院にいる。

もう人に流されるのは止めよう……と、僕は心に誓ったのだった。




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御手洗一二三は流されない ポルンガ @3535mim

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