5話 トリプルデート 帰り道(おまけ)

恋人での別行動の後、みんなで夕飯を食べてから、章人さんの運転で帰ってきた。順番にそれぞれの家や最寄り駅に寄って別れていき、最後に私と章人さんが残った。車は章人さんの家の駐車場に一晩とめて、明日レンタカーショップに返しに行くことになっている。

「よし、ついたぞ、翔菜」

「はい、ありがとうございます。今日はすごく楽しかったです」

「俺も、すごく楽しかったし、嬉しかった。翔菜がおれのためにがんばってくれたから…」

「ちょ、露木さん」

「ん、露木?」

「あ、いや、章人さん…」

「うん、いい子」

助手席に座る私の右手を握って、章人さんが顔を覗き込んでくる。

「なあ、1回、キスしてもいい?」

「わ、あの、はい、どうぞ…」

「…ありがとう」

露木さんの顔が近づいてきて、私はとにかく目を閉じた。そっと唇が重なって、私の鼓動は限界突破で早まる。

軽く触れた後、すぐに唇が離れて、私も目を開けた。目の前に章人さんの顔があって、思わず目をそらしてしまう。初めてのキス、してしまった…。以外とあっさりできてしまった…。

「…もう1回、いい?」

「ダ、ダメです! 1回って言ったもん…」

さっきはなんか勢いでできたけれど、もう意識しちゃったから無理だ…。

「そうだったな、ごめん」

そう言って笑った章人さんが私から離れる。その顔は、怒っても悲しんでもいなくて、むしろ嬉しそうだ。

私は、少し考えてから章人さんの名前を呼ぶ。そして、こっちを向いた彼の唇に軽く口付けた。

「…翔菜さん?」

驚いて目を丸くしている章人さんと一瞬だけめを合わせて、私は助手席の扉に手をかけた。

「今日は、本当に楽しかったです。それでは、おやすみなさい!」

「あ、はい」

章人さんからの返事を聞くのと同時に、私は勢いよく車から飛び出して、そのまま家の玄関に飛び込んだ。ちょうど廊下にいたお姉ちゃんに驚かれたけれど、そんなことを気にしている余裕は今の私にはない。

不意打ちに近い形で章人さんの唇を奪ってしまった。いや、唇を奪うだなんて、なんか響きが恥ずかしい…。ちょっと、芙佳さんを見習って、少し自分からがんばってみようかなって、気まぐれに思ったから、それこそ勢い任せに動いてみたんだけれど…。

恥ずかしい…。でも、なんだか気持ちがふわふわして嬉しい…。今日のトリプルデート、本当に楽しかったな。章人さんを下の名前で呼べるようになったし、初めてのキスも、自分からのアクションもできた。私にしては、大進歩だ。

章人さんだけじゃなくて、ひよちゃんはもちろん、いつき君とも芙佳さんとも桜也さんともいろんな思い出ができた。また、みんなと遊びに行きたいな。章人さんとも、これからたくさん、いろんなことをしていけたらいいな。


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恋は成就後1 ~この恋、咲き続けますように~ 藤代実里 @HuzishiroMisato

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