ソロ×ソロ
鳥柄ささみ
ソロ×ソロ
「うわぁあああ!! で、出たぁあああ!!!!」
「こいつはデカイってもんじゃねぇぞ……っ!」
「っく、討伐なんて無理だ! 撤退だ撤退!!」
そう言って目の前の彼らは一目散に逃げていく。
(あぁ、また逃げられてしまった)
僕はしょんぼりすると、大きくなりすぎた身体を丸めながら太く大きな尻尾をぐるんと一振りした。
(人間を食べたりしないのになぁ)
そう思うも言葉が通じない彼らにこんな想いは伝わらない。
そもそも僕はモンスターだ。
いわゆる邪竜と呼ばれているらしい。
聞くところによると僕たちの一族はみな凶暴で人間を次々と襲っているそうだ。
あぁ、どうしていずれも伝聞的な言い方なのかって?
それは簡単、実際に僕は一族のことを知らないからだ。
というのも僕ははぐれドラゴンだった。
物心ついたときには家族はいなくて、ひとりぼっち。
周りのモンスターも僕を見るなり怖がって逃げてしまって、僕はソロモンスターとして恐れられていた。
(でも、この見た目なのはただ食っちゃ寝をしてただけなのだけどね)
やることもなく、食べては寝て、また起きては食べて寝ての繰り返しで、僕の身体はすくすくと育ち、立派なドラゴンになっていた。
正直、僕自身も身体が重いと感じるくらいにはだいぶ肥えていて、全体的に普通のドラゴンよりも大きくなっている気がする。
そのため、別に僕自身戦ったこともないし、実際に強いのかも不明なのにこの姿にモンスターも人間もみんな怯えて近づこうともしなかった。
たまに人間は先程みたいに討伐にやってくるが、すぐさま逃げていってしまう。
僕はそれが寂しいけれど、どうすることもできないので、今日もまたソロモンスターとして現在の根城でぐうすかとまた寝るのであった。
◇
「あら、起きた? おはよう、ドラゴンさん」
目を覚ますと目の前には小さな少女がいた。
手には彼女の身の丈くらいはありそうな斧を抱えていて、僕が起きるのを待っていたのかにっこりと微笑んでいた。
その今まで見たことないほど無邪気で恐怖心も何もなさそうな姿に、逆に僕が恐れ慄く。
「ふふふ、そんな警戒しないで! まぁ、怖がるのも無理はないわよね。私、強いし。でも今回私は貴方を討伐にきたわけじゃないの。ちょっとしたお誘いをしようと思って」
(誘い、とはどういうことだろうか……)
興味をひかれて彼女の瞳を覗き込む。
まるで焔のように紅い瞳は嬉しそうに歪んだ。
「あら、興味を持ってくれたのね。それはよかった。で、提案なんだけど、貴方……私と組まない?」
突然、この少女は何を言い出すのかと目を見張る。
(まさか僕と手を組もうだなんて。しかもまだ小さいのに)
「うんうん、私の言葉ちゃんと通じてるようね。よかったよかった。実はね、私ソロハンターをしてるのだけど、この身なりでしょ? 本当はもう百歳をゆうに超えているんだけど、他のハンター達に舐められることが多くて。エルフと人間のハーフだから年を取りにくいってのもあるのだけど、色々と不便なのよ。そこで、貴方を仲間にすることで舐められずに済んで、移動にも使える。どう? ダメかしら?」
(随分とハキハキと物怖じせずに喋る少女だと思ったが、まさかのハーフエルフとは)
エルフは引っ込み思案であまり郷から出ないと聞いていたが、まさかハンターをしているエルフがいるとは。
ハーフとはいえ、行動敵なんだなぁと感心する。
そして、清々しいほど自分のメリットを語る彼女に面白いと思ったのも事実だった。
「あぁ、私だけメリットがあるわけじゃないのよ? ほら、貴方はずっと一人でしょう? せっかく生まれてきたのだもの、色々な世界を見たほうがいいでしょう? 私はハンターだからあちこちに出かけるし、色々な世界を見せられると思うわよ。あぁ、あと……貴方もう少し痩せたほうがいいわ。これじゃ、後々に病気になって死ぬわよ?」
僕の気持ちが理解できるのか、こちらの思考を汲み取りながらするすると話す彼女。
そんなことは初めてで、意思疎通ができることは素直に嬉しかった。
あと、太り過ぎだというのは図星で、そろそろ自分でもヤバいとは思っていたので確かにそれは僕にとってメリットではあった。
(外の世界も見てみたいなぁ)
いつも外界の情報は討伐しにくるハンター達の言葉からのみ。
外界に行きたいけど、元々ものぐさなのと臆病な性格が災いしてなかなか出るに出られなかったため、今回外に出なければ一生この根城から出ないような気がした。
「ふふふ、交渉成立ね。私はビアンカ。よろしくね、相棒さん」
彼女が僕の背に乗る。
僕は彼女を落とさないように気をつけながら、のっそりのっそりと動き出した。
……その後、邪竜を連れたハーフエルフのビアンカの活躍は世界中を駆け巡り、彼らが亡くなったあとも後世に語り継がれるのであった。
ソロ×ソロ 鳥柄ささみ @sasami8816
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