あのね、藪からスティックのような出来事だけれど。
大創 淳
第九回 お題は「ソロ〇〇」
――藪からスティック! 本当にその様な心境。ミミシ! と高鳴る効果音。油断しているとスティックで……いやいや急に飛び出し現れた槍に串刺しにされた。
僕の小さな胸。
そしてハート。深々と……
実は、お題のこと。予想を見事なまでに覆した。今度こそ、どうしよう、どうしよう的な展開。そのお題は僕の思想を駆け巡る。すぐさま、しかもエンドレス……無限。
ソロ○○だから『ソロバン』……とも思ったのだけれど、
やっぱりソロだよね、求めていることは……例えば『ソロ活動』とか。それは、あの日のジャッジメント。僕は実は……生徒会と関わりある者。僕だけではなく
ここでいうジャッジメントとは、生徒たちを守ること。もしもトラブルが発生したのなら密に報告すること、生徒会長に。或いは顧問の先生に。なら、単独行動は禁止……とまでいかないが、戦隊もののような趣なので、ソロ活動は危険を伴うからできるなら……
まだ草創期。未完成な組織……
故に、いじめを目の当たりにした僕は、まるで本能の赴くがままに行動する。いじめられている男の子は、僕の可愛い後輩。体のあちらこちらに、火傷の痕……
誰がやったのか、
それは、どのようにしてなったのか、
確たる証言や証拠を入手するために、調査を始める。……というよりも、その時には堪忍袋の緒はプッツンと切れていた。思考を遮るほど、頭に血が上っていた。
その男の子が所属していた部は、水泳部。――颯爽たる侵入、水泳部の部室。見事なまでに、きな臭い。そう思うのには充分だった。もはや怪しきは一目瞭然だった。
匂う。……煙草の匂い。
そして、花火でもしたの? と思えるような、下手すれば火事になりかねない床の焦げた跡。壁にだって……鼠花火の残骸? それとも爆竹? 開ける灰色のロッカー。中も外も錆びていて派手に。その中にあった……花火。鼠やロケット等々。
――その途上、調査の途中に弾ける物音!
開けられるドア、お外から外部から、咄嗟に身を隠す僕、
隙間ともいえる物陰。大きな椅子の下へ潜る。それは、それはね、
……ベンチ!
そう、ベンチなの。大きな椅子の下は、ベンチの下のことを指す。
気が動転して、その単語が浮かばなかった。身を隠して、地面に寝そべった格好になっている。僕の視界から見えるものは、男子生徒二人の足元。脹脛の部分から下。
底冷えする地面。催したものは尿意……まったく冗談みたいなこの状況なの。
聞こえる会話……
淡々と? それとも怖いような印象を受ける?
「どうするよ、
「……やり過ぎたよな、人間爆竹。まさか全裸のまま、途中で逃げ出すとは思ってなかったもんな。よりによって他所の学校の先生に見つかって保護されたって……何でも、余計なことしてくれた中坊女がいたっていうか……会ったら一発ぶん殴ってやるんだが」
――ゴツッ!
という効果音がピッタリな、見事なまでに頭をぶつけた。しかも、何でこのタイミングなの? それでもって、少し尿も出ちゃって。……察しの通り、最悪なシナリオの幕開けかも。おまけに見つかっちゃったの、二人に。覗き込まれて……
「おらっ!」
との怒号と共に、乱暴にベンチの下から引き摺り出され、バンッ! と激しい音と共に胸倉掴まれたまま、ロッカーに背中を強打。見上げる……僕よりも二十センチ以上も高い背丈の男子生徒二人に囲まれた。二人とも怖く、鬼の形相。
「何してんだ、お前? 勝手に入り込みやがて」
「今の話、聴いたよな? 事と次第によっちゃ、黙らせるしかないよな?」
拳を握りしめる、一人が。
足が微かに地に着いている状況……持ち上がる僕の体。首が閉まる、圧迫される。
「そうやって……いじめてたのね、
そう僕の可愛い後輩の名は、都築怜央。……催している尿意も我慢できそうになく、怖くて泣きそうだけれど、負けちゃ駄目と、そう自分に喝を入れる胸中で。
「お前か! 余計なことしてくれた中坊女は。じゃあ、もう余計なことしないように、ぶん殴ってやるから、ションベンちびりながら『ごめんなさい』って謝るんだな」
「誰が、あなたたちなんかに」
――無慈悲に振り下ろされる拳!
「ヒッ」と縮こまる。すでに涙目。
風を切り迫る拳! 僕に向かう。
そして響く効果音。――ガシッ! と?
「イテテテ!」と声も裏返って、こだまする声? 僕は痛くない?
男子生徒の方だ、僕を殴ろうとした。手首を掴まれている、その男子生徒。その男子生徒の背後には、
解かれた手首。
手首を押さえる、その男子生徒。押さえながら、
「なんちゅう馬鹿力なんだよ!」と向き直り、瑞希先生を見るなり「ゲッ、
「そうねえ、まだ教員じゃないよね、ここの。通りすがりの
「殴るつもりか? 俺たちを?」
「それもあるかもね、しかも高い確率で。それよりも、さっき君たちがしていたお話、この子のお陰で、わたしにも聞こえちゃったから。よく覚えとくね、証人は二人だから」
怒る中にも笑みを浮かべる瑞希先生……
僕は、どちらかというと、男子生徒二人よりも瑞希先生の方が、怖く思えた。
「覚えてろよ!」
……との捨て台詞も言えずに二人は去る。男子生徒二人は逃げるように去って行った。
「大丈夫?
と、いつもの、
優しい口調で、声を掛けてくれたのだけど、
「え~ん、大丈夫じゃないよお……」
と、僕は、催していた尿意も限界突破……全部でちゃって、足元に大きな水溜まりまで作ってしまって……お目にかけた通りで、上からも下からも泣いちゃったの。
――そっとしてくれた。あの後の……興奮にも似た得体の知れない感情も。
それを抑えるためにも僕は大人しく無口になって、芸術棟の一階で……濡れて汚れた制服と下着も、備え付けの乾燥機付き洗濯機に入れて、浴室というよりもシャワールームで流す。上と下からの涙も、そして怖かったという感情も……でも、事実は流さない。
「何も一人で……
何でこんな無茶したの?」って、可奈に怒られちゃったけれど、瑞希先生に連れられこの場所で。その後は……梨花も一緒にそっと、黙って見守ってくれた。
僕は、
カッコ悪い先輩だけれど、
弟みたいに可愛い後輩を、自分なりに守りたかったから。
その思い込み上がる。この度のソロ活動を経て、もっと強くなりたいと思うから。
瑞希先生のように、
僕は強くなりたい。――それは影の顧問。
今まで触れなかったことだけれど、整然と存在しているということ。
平田瑞希という首領の存在。
威厳たる相手の反応。男子生徒二人は瑞希先生とは顔見知り。きっと裏の顔も知っている様子。明らかに動揺していた。それほど怖い存在かも。
腕力は強いそうなの。僕のお母さんがそう言っていた。そして間違いなく、この次の芸術部顧問は必至。……そう、陰ながらの生徒会も兼任で。裏も表も芸術部だ。
あのね、藪からスティックのような出来事だけれど。 大創 淳 @jun-0824
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