ソロ登山で妖精と出会ってしまった

三枝 優

星空の下

 夏休み。

 僕は、ソロ登山をしていた。

 登山と言っても、尾根を縦走したり沢を登ったり。

 山に分け入って、山奥の中で生活していた。


 子供のころから山の中に入ることが多かったので、特段珍しい生活ではなかった。


 その夜、美しい夜空だった。

 僕は、大きな木の下でテントを張り野営していた。

 簡単な夕食を終え、お湯を沸かしコーヒーを入れる。


 ”本当に、降るような星空だ・・”

 静かな夜。

 ここまで星が綺麗な夜も珍しい。


 その時、光が本当に落ちてきたように見えた。

 それがだんだんと大きくなっていく。


 ほんとに・・・落ちてきた。

 ゆっくりと。大きくなっていく。


 やがて、それは輪郭があらわになっていく。


 女の子の姿。

 ただ、大きく違うのは・・・羽が生えている。

 それは、おとぎ話で言うところの妖精だった。


 ふわっと、透明な羽を広げている。

 光をまとって、ゆっくりと降りてくる。


 その子が目の前に降って来た。


 おとぎ話と違うのは、大きさ。

 人間と変わらない。


 その子は、僕の目の前に降り立つと挨拶をしてきた。


「こんばんわ、まさかこんな山の中で人間に会うとは思わなかったわ」

「あ・・こんばんわ。すみません、邪魔でしたか?」

「邪魔ではないけど・・・」

「君は・・・妖精?」

「えぇ・・そうよ。私のことはみんなは、”ベル”って呼んでいるわ」

「本当に、妖精っていたんだ」

「そろそろ行かなきゃ。私のこと秘密にしておいてね」


 口元に人差し指を当てると、その子は空中に浮いた。


「じゃあね」

 すうっと夜空に浮かび上がると、飛んで行ってしまった。


 本当におとぎ話のように、何もなかったように静かな暗闇。


 まるで、夢を見ていたかのよう。

 何もなかったような夜空。

 星が、綺麗に輝いていた。





 夏休みが終わって、学校が始まった。

 教室の窓際の僕の席。

 

 あの妖精のことを考えて空を見ていると、先生が入っていた。

「はい、静粛に!」

 教室が静かになる。


「さて。夏休みが割って早々だが、転校生が入ってくることになった。さぁ、入ってきて」


 教室に入って来たのは・・

 羽こそなかったが、あの女の子だった。

 制服を着た、黒髪の美しい少女。


「初めまして、阿久津 リンです。よろしくお願いします」

「席は、窓際のあそこが空いているな」


 先生が示したのは、僕の後ろの席。


 彼女が僕の横を通るとき、小さくささやいた。

「この間ぶりだね、私のこと秘密だからね」


 あれは、夢ではなかったんだ。


 これから始まる学校生活。

 なにやら、騒がしくなりそうな予感がしてきた。









「初めまして、阿久津 鈴です」

 その言葉に、クラスの中では真っ青になっている者たちがいた。

 小さな声でささやきあっている。

「ねぇ・・ヒロ。あれって・・」

「あぁ・・間違いない。

 彼女は、ベルゼブル蠅の王だ」


 悪魔軍の幹部。ベルゼブル。

 本来は、地球に入ってくることは禁止されているはずである。


「それって・・・契約は・・」

「間違いなく・・契約違反だ・・・」


 別な意味で、騒がしくなる予感。

 地球の・・・世界の危機の予感。


 実際、その後。

 その学校では、神や悪魔を巻き込んだ全次元世界に影響する事件が起こったのであった。

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ソロ登山で妖精と出会ってしまった 三枝 優 @7487sakuya

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